広汎性発達障害とは？特徴・症状・原因をわかりやすく解説

広汎性発達障害かもしれない「家族や知人がそう診断されたけど、どんな障害なんだろう？」このような疑問や不安を抱えている方もいらっしゃるかもしれません。
広汎性発達障害（PDD）は、かつて使われていた発達障害の診断名の一つです。現在は新しい診断基準に統合されていますが、その特性を理解することは、ご本人や周りの人々が過ごしやすくなるための第一歩となります。
この記事では、広汎性発達障害の基本的な定義から、具体的な特徴、原因、そして大人や子供に見られるサインまで、専門的な情報を分かりやすく解説します。ASD（自閉スペクトラム症）やADHDといった他の発達障害との違いについても触れていきますので、ぜひ最後までご覧ください。

広汎性発達障害（PDD）の定義と概要

広汎性発達障害（Pervasive Developmental Disorders: PDD）とは、社会性やコミュニケーション能力、想像力といった、発達の様々な領域にわたって困難が生じる障害の総称でした。
重要な点として、現在、アメリカ精神医学会の診断基準『DSM-5』（2013年改訂）では、「広汎性発達障害」という診断名は用いられていません。
かつて広汎性発達障害に含まれていた「自閉性障害」「アスペルガー障害」「特定不能の広汎性発達障害」などは、すべて「自閉スペクトラム症（ASD）」という一つの診断名に統合されました。これは、これらの障害が明確に区別できるものではなく、重なり合う連続体（スペクトラム）として捉える方がより実態に近い、という考え方に基づいています。
しかし、現在でも「広汎性発達障害」という言葉が、過去に診断を受けた方や、ASDの特性を広い意味で指す言葉として使われることがあります。この記事では、主にASDに引き継がれた特性として広汎性発達障害を解説していきます。

広汎性発達障害の主な3つの特性

かつて広汎性発達障害の診断で重視されていた主な特性は、以下の3つです。これらは現在の自閉スペクトラム症（ASD）の中核的な特性としても理解されています。

社会性・対人関係の困難

他者との関わり方に独特のスタイルが見られます。

• 相手の気持ちを察したり、表情や声のトーンから意図を読み取ったりするのが苦手
• その場の「暗黙のルール」や「空気」を読むことが難しい
• 集団行動が苦手で、一人でいることを好む傾向がある
• 友人関係を築いたり、維持したりすることに困難を感じる

これは「他人に興味がない」のではなく、「どう関わればよいかわからない」という状態に近いと言えます。

コミュニケーションの困難

言葉のやり取りや非言語的なコミュニケーションに困難が見られます。

• 言葉の裏の意味や皮肉、冗談を文字通りに受け取ってしまう
• 曖昧な表現（例：「あれ、適当にやっておいて」）の理解が難しい
• 自分の興味のあることについて一方的に話し続けてしまうことがある
• 会話中に視線が合いにくい、または逆にじっと見つめすぎてしまう
• 言葉の発達に遅れが見られる場合もある

こだわり・興味の偏り

特定の物事や手順に対して、強いこだわりや興味を持つことがあります。

• 毎日同じ服を着る、同じ道順で通勤・通学するなど、決まった手順やルールを好む
• 急な予定変更や環境の変化に対応するのが苦手で、混乱したり不安になったりする
• 興味の範囲が限定的で、特定のもの（例：電車、数字、特定のキャラクターなど）について驚異的な知識を持っていることがある
• くるくる回るものを見続けたり、手をひらひらさせたりするなど、常同行動（同じ動きを繰り返すこと）が見られる

広汎性発達障害のその他の特性

上記の3つの特性に加え、以下のような特徴が見られることもあります。

感覚過敏・鈍感

五感の感じ方に偏りがある場合があります。

• 感覚過敏: 特定の音（掃除機の音など）、光、匂い、味、肌触りに対して強い不快感を示す。
• 感覚鈍感: 痛みや熱さ、寒さなどを感じにくい。

これらの感覚の違いは、日常生活での「わがまま」や「神経質」と誤解されやすいですが、本人にとっては非常につらいものです。

運動機能の苦手さ

体の使い方が不器用であることがあります。

• 縄跳びやボール投げなどの運動が極端に苦手
• ハサミを使ったり、字を書いたりといった手先の細かな作業が難しい
• 姿勢を保つのが苦手で、ぐにゃぐにゃしているように見える

広汎性発達障害の原因

広汎性発達障害の原因について、親の育て方やしつけ、愛情不足などが原因ではないということが、現在の医学ではっきりとわかっています。
主な原因は、生まれつきの脳機能の特性にあると考えられており、様々な遺伝的要因や環境要因が複雑に絡み合って影響するとされています。決して、本人の努力不足やご家族の関わり方の問題ではありません。

広汎性発達障害とASD・ADHD・LDの関係

発達障害にはいくつかの種類があり、特性が似ていたり、複数の障害を併せ持っていたりすることもあります。ここでは、代表的な発達障害との関係を整理します。

広汎性発達障害とASD（自閉スペクトラム症）の違い

前述の通り、現在の診断基準では広汎性発達障害はASD（自閉スペクトラム症）に統合されています。したがって、「違うもの」というよりは、「古い呼び方」と「新しい呼び方」という関係に近いです。かつての広汎性発達障害の特性は、そのままASDの特性として理解されています。

広汎性発達障害とADHD（注意欠如多動性障害）の違い

ADHDは「不注意」「多動性」「衝動性」を主な特性とする発達障害です。

ADHDは「うっかりミス」や「落ち着きのなさ」が目立つ一方、広汎性発達障害（ASD）は「対人関係の難しさ」や「こだわりの強さ」が中心となります。ただし、ASDとADHDの両方の特性を併せ持つ人も少なくありません。

広汎性発達障害と学習障害（LD）の違い

学習障害（LD）は、全体的な知的発達に遅れはないものの、「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算する」といった特定の能力の習得や使用に著しい困難を示す発達障害です。広汎性発達障害（ASD）の人がLDを併せ持つこともありますが、困難の中心が対人関係やこだわりにあるのか、特定の学習能力にあるのかという点で異なります。

広汎性発達障害の大人に見られる特徴

子供の頃には目立たなかった特性が、大人になって社会生活を送る中で顕在化することがあります。

大人における広汎性発達障害のコミュニケーションの特徴

職場など、複雑な人間関係が求められる場面で困難を感じやすくなります。

• 報連相が苦手: どのタイミングで何を報告すればよいか判断が難しい。
• 指示の理解: 「いい感じに」「よしなに」といった曖昧な指示を理解できず、具体的な指示が必要。
• 雑談が苦手: 相手に合わせたり、興味のない話題を続けたりすることが苦痛に感じる。
• マルチタスクが苦手: 複数の業務を同時にこなすことが難しく、混乱しやすい。

共感性の欠如と対人関係の難しさ

広汎性発達障害のある人は、時に「冷たい人」「共感力がない」と誤解されることがあります。しかし、これは他人の感情が全く分からないのではなく、感情を読み取ったり、自分の気持ちを適切に表現したりするのが苦手なためです。結果として、意図せず相手を傷つけてしまったり、孤立してしまったりすることがあります。

広汎性発達障害の子供に見られるチェック項目

お子さんの言動で気になることがある場合、以下のサインが参考になるかもしれません。ただし、これらはあくまで目安であり、当てはまるからといって必ずしも障害があるとは限りません。

子供の広汎性発達障害のサイン

• 乳幼児期
  • 目をなかなか合わせない
  • 親があやしても笑わない、反応が薄い
  • 人見知りや後追いをほとんどしない
  • 言葉の発達がゆっくり
  • 特定の物への強いこだわりを見せる
• 幼児期〜学童期
  • 一人遊びを好み、ごっこ遊びが苦手
  • 友達と上手に関われず、トラブルになりやすい
  • ルールや順番に厳格で、融通が利かない
  • 急な予定変更を嫌がり、パニックになることがある
  • 話し方が独特（棒読み、大人びた言葉遣いなど）

【注意】
これらのサインは、子供の成長過程で一時的に見られることもあります。心配な場合は、自己判断せず、かかりつけの小児科や地域の保健センター、子育て支援センターなどの専門機関に相談することが大切です。

広汎性発達障害の有名人

近年、発達障害であることを公表する有名人や著名人が増えています。自身の特性を強みとして活かし、様々な分野で活躍している方も少なくありません。
例えば、特定の分野への強い探求心や集中力は、研究者や専門職として大成する力になり得ます。また、独自の視点や発想力は、アーティストやクリエイターとしての才能に繋がることもあります。
個人のプライバシーに配慮し、ここで具体的な名前を挙げることは控えますが、発達障害の特性は、決して弱みだけでなく、唯一無二の「個性」や「強み」にもなり得るということを知っておくことが大切です。

広汎性発達障害の用語：英語（PDD）と診断名

改めて用語を整理します。

• 広汎性発達障害（PDD）: 英語では “Pervasive Developmental Disorders” と呼ばれます。これは現在では正式な診断名ではない「過去の呼び方」です。
• 自閉スペクトラム症（ASD）: 英語では “Autism Spectrum Disorder” と呼ばれます。現在の正式な診断名であり、かつての広汎性発達障害の概念を含んでいます。

医療機関などで相談する際は、「自閉スペクトラム症（ASD）」の特性について相談したいと伝えるとスムーズです。

広汎性発達障害の専門家による診断と治療

もし、ご自身やお子さんが広汎性発達障害（ASD）の特性に当てはまり、日常生活で困難を感じている場合は、専門機関に相談することをおすすめします。

相談できる場所

• 子供の場合: 地域の保健センター、子育て支援センター、児童相談所、児童精神科、小児神経科
• 大人の場合: 発達障害者支援センター、精神科、心療内科

診断と支援

専門医療機関では、問診、心理検査、行動観察などを通じて総合的に診断が行われます。
発達障害は病気ではないため、「完治」させるという概念の「治療」はありません。支援の目的は、本人が自身の特性を理解し、困難を減らし、自分らしく過ごしやすくするためのスキルや環境を整えることです。

• 環境調整: 刺激の少ない環境を用意したり、指示を視覚的に分かりやすく伝えたりする工夫。
• 療育・トレーニング: 対人関係のスキルを学ぶ「ソーシャルスキルトレーニング（SST）」や、保護者が子供への適切な関わり方を学ぶ「ペアレントトレーニング」などがあります。
• 薬物療法: 不安やうつ、パニックなど、二次的に生じた症状を和らげるために薬が処方されることがあります。

一人で抱え込まず、専門家の力を借りることで、ご本人もご家族もより穏やかな毎日を送るための道筋が見えてくるはずです。

***免責事項***
本記事は広汎性発達障害に関する情報提供を目的としており、医学的な診断や治療に代わるものではありません。心身の不調や発達に関する気になる症状がある場合は、必ず専門の医療機関にご相談ください。