寝不足で動悸がする?原因と自律神経の乱れ、今すぐできる対処法

寝不足で動悸や息苦しさ、胸の痛みを感じていませんか?それは、あなたの身体からの大切なサインかもしれません。現代社会において、多忙な生活やスマートフォンの普及により、睡眠不足は多くの人が抱える課題となっています。そして、この睡眠不足が、知らず知らずのうちに心臓に負担をかけ、動悸として現れるケースが少なくありません。特に、自律神経の乱れは、動悸と密接に関わっており、そのメカニズムを理解することが、症状の改善への第一歩となります。この記事では、寝不足と動悸の詳しい関係性、具体的な症状、そして今日からできる対処法について、専門家の知見を基に深掘りしていきます。

寝不足と動悸:自律神経の乱れが原因?

私たちは日々の生活の中で、さまざまな活動を行い、心身に負荷をかけています。その負荷を解消し、体を修復するための重要な時間となるのが「睡眠」です。しかし、十分な睡眠が取れないと、私たちの体は常に緊張状態に置かれ、特に自律神経のバランスが大きく乱れることにつながります。この自律神経の乱れこそが、寝不足による動悸の主要な原因の一つと考えられています。

動悸とは、心臓の拍動を自覚することであり、普段は意識しない心臓の動きを「ドキドキする」「トクトクと脈打つ」「胸が締め付けられるよう」などと感じる状態を指します。健康な人でも、激しい運動の後や緊張した時、あるいはカフェインを過剰に摂取した時などに一時的に動悸を感じることはあります。しかし、特に心当たりのない状況で動悸を感じたり、頻繁に起こる場合は注意が必要です。

寝不足が続くと、体は休息を十分に取れていないと認識し、ストレス状態に陥ります。このストレス状態が、自律神経の中でも体を活動モードに切り替える「交感神経」を過剰に活性化させます。交感神経が優位になると、心拍数や血圧が上昇し、心臓に大きな負担がかかることで、動悸として症状が表れやすくなるのです。

睡眠不足が動悸を引き起こすメカニズム

寝不足が動悸を引き起こすメカニズムは複雑ですが、主に心臓への直接的な影響と、自律神経のバランスの乱れが深く関わっています。私たちの体は睡眠中に心身のメンテナンスを行うため、睡眠が不足すると様々な機能に悪影響が生じます。

睡眠不足が心臓に与える影響

睡眠は、心臓を含む全身の臓器にとって非常に重要な休息と回復の時間です。十分な睡眠を取ることで、心臓は日中の活動で生じた疲労を回復させ、心拍数や血圧も安定します。しかし、睡眠が不足すると、心臓は常に働き続けなければならない状態に置かれ、その結果、様々な悪影響が生じます。

まず、睡眠不足は心拍数の増加を招きます。体が「休めていない」と判断すると、覚醒状態を維持しようとして交感神経が優位になり、心臓のポンプ機能が亢進します。これは、心臓が普段よりも多くの血液を全身に送り出そうとするためであり、結果として心拍数が通常よりも高くなる傾向が見られます。一晩だけの寝不足でも、心拍数が平均的に数拍増加することが研究で示されており、これが動悸として自覚されることがあります。

次に、血圧への影響です。睡眠中は血圧が低下し、心血管系が休息する「ディッパー」と呼ばれる状態になるのが正常です。しかし、睡眠不足が続くと、この生理的な血圧低下が見られにくくなる「ノンディッパー」状態に陥りやすくなります。つまり、夜間も血圧が高い状態が維持され、心臓や血管に持続的な負担がかかります。これにより、動脈硬化のリスクが高まったり、既存の高血圧が悪化したりする可能性も指摘されています。

さらに、睡眠不足はストレスホルモン、特にコルチゾールの分泌を増加させることが知られています。コルチゾールは、ストレス応答の一環として血糖値や血圧を上昇させる作用があり、これが長期的に続くと心臓に過度な負荷をかけ続けます。心臓は絶えず拍動している臓器であり、慢性的なストレスホルモンの影響は、心筋にダメージを与えたり、心臓の収縮力に影響を及ぼしたりするリスクがあります。

洞性頻脈と寝不足の関係

洞性頻脈(どうせいひんみゃく)とは、心臓の規則的な拍動を司る「洞結節」からの電気信号が、通常のペースよりも速くなることで起こる頻脈の一種です。安静時の心拍数が1分間に100回以上になる状態を指しますが、これは必ずしも病的なものではなく、運動や興奮、発熱、脱水、貧血など、様々な生理的要因や一時的なストレスによっても引き起こされます。

寝不足もまた、この洞性頻脈の一般的な原因の一つです。前述したように、睡眠不足は自律神経のバランスを崩し、特に体を覚醒・活動状態に導く交感神経を優位にします。交感神経が活性化すると、心臓の洞結節に作用して、心拍数を増加させる信号を送ります。これにより、心臓が普段よりも速く拍動するようになり、これが動悸として自覚されることが多いのです。

具体的には、寝不足によって体が疲労状態にあるにもかかわらず、心臓は過剰に活動しようとするため、常にマラソンをしているような状態に近いと言えます。これにより、息苦しさや胸の不快感を伴う動悸が感じられることがあります。多くの場合は、十分な休息を取ることで症状は改善しますが、慢性的な寝不足が続くと、この洞性頻脈も慢性化し、日常生活に影響を及ぼす可能性もあります。これは体が発する「休んでほしい」というサインであると捉えることが重要です。

自律神経の乱れと動悸

自律神経は、私たちの意思とは関係なく、体のあらゆる機能を自動的に調節している神経系です。心拍、呼吸、血圧、消化、体温調節など、生命維持に不可欠な機能を24時間休むことなくコントロールしています。この自律神経は、「交感神経」と「副交感神経」という二つの異なる神経によって構成されており、これらがバランスを取りながら機能することが、心身の健康を保つ上で極めて重要です。

交感神経と副交感神経のバランス

自律神経は、アクセルの役割を果たす交感神経と、ブレーキの役割を果たす副交感神経から成り立っています。

  • 交感神経: 体を活動的・興奮状態にする神経です。「戦うか逃げるか(fight or flight)」の状況で優位になります。心拍数を上げ、血圧を上昇させ、筋肉への血流を増やし、集中力を高めるなど、体を活動モードに切り替えます。日中の活動時やストレスを感じた時に優位になります。
  • 副交感神経: 体をリラックス・休息状態にする神経です。「休息と消化(rest and digest)」の状況で優位になります。心拍数を下げ、血圧を安定させ、消化器系の働きを促進し、体をリラックスさせる作用があります。夜間の睡眠時や食後、リラックスしている時に優位になります。

健康な状態では、これら二つの神経が日中と夜間でシーソーのようにバランスを取りながら優位性が入れ替わり、体のリズムを整えます。しかし、寝不足が続くとこのバランスが大きく崩れます。特に、睡眠時間が不足すると、体は休息できていないと感じ、ストレス状態が継続するため、日夜を問わず交感神経が優位になりやすくなります。

交感神経が過剰に優位な状態が続くと、心臓は常に心拍数を上げ、全身に血液を送り出すことを強いられます。これにより、脈拍が速くなる、胸がドキドキするといった動悸の症状が頻繁に現れるようになります。また、血管も収縮しやすくなり、血圧の上昇にも繋がります。

本来、副交感神経が優位になるべき睡眠中やリラックスしている時間帯に、交感神経が活発なままだと、心身は休まることができません。これにより、さらに睡眠の質が低下し、動悸の悪化という悪循環に陥ることもあります。自律神経の乱れは、動悸だけでなく、冷え性、便秘、頭痛、めまい、倦怠感など、全身に多様な不調を引き起こす原因ともなるため、そのバランスを整えることが健康維持には不可欠です。

寝不足で動悸以外に起こりうる症状

寝不足は動悸だけでなく、全身にさまざまな不調を引き起こす可能性があります。これらの症状は、動悸と同様に自律神経の乱れや身体への負担の増加が原因となって現れることが多いです。

息苦しさや胸の痛み

動悸と同時に、息苦しさや胸の痛みを訴える人は少なくありません。これは、心臓が過剰に活動することで、酸素消費量が増え、呼吸器系にも負担がかかるためです。また、自律神経の乱れが直接的に呼吸リズムに影響を与え、呼吸が浅くなったり、早くなったりすることも息苦しさの原因となります。特に不安やストレスが強い場合には、過呼吸のような症状を伴うこともあります。

胸の痛みについては、筋肉の緊張や神経痛が原因である場合もありますが、まれに狭心症や心筋梗塞といった重篤な心臓病のサインである可能性も否定できません。寝不足による胸痛は、通常は締め付けられるような痛みよりも、漠然とした不快感や圧迫感として感じられることが多いですが、症状が続く場合や強い痛みがある場合は、必ず医療機関を受診することが重要です。

めまいや吐き気

寝不足は、脳の血流調節にも影響を及ぼし、めまいや立ちくらみを引き起こすことがあります。特に、急に立ち上がった時に血圧がうまく調整されず、脳への血流が一時的に不足することで起こる「起立性低血圧」も、寝不足によって悪化する傾向があります。

また、自律神経は消化器系の働きもコントロールしているため、そのバランスが乱れると、胃腸の動きが不安定になり、吐き気や胃のむかつき、食欲不振といった症状が現れることがあります。吐き気は、疲労感やストレスと結びついて起こることも多く、寝不足が精神的な負担を増幅させることで、消化器系の不調を引き起こす連鎖が生じる可能性もあります。

血圧の上昇

前述の通り、睡眠不足は血圧の上昇に直結します。睡眠中に分泌されるストレスホルモンの影響に加え、交感神経の持続的な活性化は、血管を収縮させ、心臓のポンプ機能を高めるため、結果的に血圧を押し上げます。一時的な血圧上昇であれば問題ないことが多いですが、慢性的な寝不足が続くと、高血圧が常態化するリスクが高まります。

高血圧は、心臓病や脳卒中の主要な危険因子の一つであり、長期的に放置すると血管にダメージを与え、様々な健康問題を引き起こします。特に、若年層でも寝不足が続くと血圧が上昇する傾向が見られるため、将来的な生活習慣病のリスクを高めないためにも、適切な睡眠習慣は非常に重要です。

これらの症状は、いずれも体が発する「休んでほしい」というサインです。動悸だけでなく、他の症状も併せて現れている場合は、体全体が疲弊している可能性が高く、根本的な原因である寝不足の解消に取り組むことが急務となります。

寝不足による動悸の対処法

寝不足による動悸の最も効果的な対処法は、やはり睡眠の質と量を改善することです。しかし、それだけでなく、自律神経のバランスを整え、心身にかかるストレスを軽減するための多角的なアプローチが重要になります。

睡眠の質と量を改善する

睡眠の質と量の改善は、寝不足による動悸の根本的な解決策です。単に睡眠時間を確保するだけでなく、いかに質の良い睡眠を取るかが鍵となります。

規則正しい睡眠習慣

人間の体には、約24時間周期で変化する「体内時計」が備わっています。この体内時計が乱れると、自律神経のバランスが崩れやすくなり、動悸を含め様々な不調の原因となります。規則正しい睡眠習慣を身につけることは、体内時計を整え、質の良い睡眠を確保するために非常に重要です。

  • 毎日同じ時間に就寝・起床する: 休日もできるだけ平日と同じ時間に起きるように心がけましょう。週末の「寝だめ」は、一時的に疲れを取ったように感じられても、体内時計をさらに乱し、週明けの体調不良(ソーシャルジェットラグ)を引き起こす原因となります。理想は、毎日7~8時間の睡眠を確保することです。
  • 朝、決まった時間に光を浴びる: 目覚めたらすぐにカーテンを開けて、太陽の光を浴びましょう。光は体内時計をリセットし、覚醒モードへの切り替えを促します。
  • 日中の適度な活動: 適度な運動は夜間の睡眠の質を高めます。しかし、就寝前の激しい運動は交感神経を刺激し、入眠を妨げる可能性があるため避けましょう。日中に体を動かす習慣を取り入れるのが理想的です。
  • 規則的な食事時間: 食事時間も体内時計に影響を与えます。特に夕食は、就寝の2〜3時間前までに済ませるように心がけ、消化に時間のかかる重い食事は避けましょう。

寝室環境の整備

快適な寝室環境は、スムーズな入眠と質の高い睡眠に不可欠です。五感に働きかける要素を見直し、リラックスできる空間を作りましょう。

  • 温度と湿度: 理想的な寝室の温度は夏場が25~28℃、冬場が18~22℃、湿度は50~60%とされています。エアコンや加湿器・除湿器を活用して、一年を通して快適な状態を保ちましょう。
  • : 寝室はできるだけ暗く保ちましょう。光は睡眠を促すホルモンであるメラトニンの分泌を抑制します。遮光カーテンを利用したり、寝る前に強い照明を避ける(特にスマートフォンやPCのブルーライト)などの工夫が有効です。間接照明や暖色系の光に切り替えるのも良いでしょう。
  • : 静かで落ち着ける環境が理想です。外部の騒音が気になる場合は、耳栓やホワイトノイズ(自然音など)を活用するのも一つの手です。時計の秒針の音など、わずかな音でも気になる場合は対策を考えましょう。
  • 寝具: 枕やマットレス、掛け布団など、体に合った寝具を選ぶことは、快適な睡眠のために非常に重要です。体圧が分散され、寝返りが打ちやすいもの、素材や肌触りが好みのものを選ぶと良いでしょう。定期的な手入れや交換も忘れずに行いましょう。
  • 香り: ラベンダーやカモミールなど、リラックス効果のあるアロマオイルを焚くのもおすすめです。寝る前の習慣として取り入れることで、体がリラックスモードへと切り替わりやすくなります。

ストレス管理とリラクゼーション

寝不足が動悸を引き起こす大きな要因の一つに、ストレスによる自律神経の乱れがあります。ストレスを完全にゼロにすることは難しいですが、上手に管理し、心身をリラックスさせる方法を日常に取り入れることで、動悸の軽減に繋がります。

呼吸法や瞑想

呼吸は自律神経と密接に関わっており、呼吸を意識的にコントロールすることで、リラックス効果を高め、乱れた自律神経のバランスを整えることができます。

  • 腹式呼吸: 最も基本的で効果的な呼吸法です。
    1. 仰向けに寝るか、椅子に深く座り、楽な姿勢になります。
    2. 片手を胸に、もう片方の手をお腹に置きます。
    3. 鼻からゆっくりと息を吸い込み、お腹が膨らむのを感じます(胸は動かさないように意識)。
    4. 口からゆっくりと息を吐き出し、お腹がへこむのを感じます。息を吐き出す時間を吸い込む時間よりも長くすると、副交感神経が優位になりやすくなります。
    5. これを5分から10分程度繰り返します。
  • 4-7-8呼吸法: 不安や緊張を和らげるのに効果的な呼吸法として知られています。
    1. 舌の先を上の前歯の裏に当てたままにします。
    2. 口から「フー」と音を立てながら息を完全に吐き切ります。
    3. 口を閉じ、鼻から4秒かけてゆっくりと息を吸い込みます。
    4. 7秒間息を止めます。
    5. 口から「フー」と音を立てながら8秒かけてゆっくりと息を吐き切ります。
    6. これを1セットとして、3回繰り返します。
  • 瞑想(マインドフルネス): 現在の瞬間に意識を集中させる練習です。
    1. 静かな場所で楽な姿勢で座ります。
    2. 目を閉じ、呼吸に意識を集中します。吸う息と吐く息の感覚、お腹の膨らみやへこみなどを観察します。
    3. 雑念が浮かんできても、それに囚われず、優しく呼吸へと意識を戻します。
    4. 最初は数分から始め、徐々に時間を延ばしていきます。毎日続けることで、ストレスに対する心のレジリエンス(回復力)が高まります。

適度な運動

適度な運動は、ストレス解消だけでなく、自律神経のバランスを整え、睡眠の質を高める効果があります。ただし、激しすぎる運動はかえって心身に負担をかけるため、無理のない範囲で継続することが重要です。

  • 有酸素運動: ウォーキング、ジョギング、サイクリング、水泳など、軽度から中程度の有酸素運動は、ストレスホルモンの分泌を抑制し、セロトニンなどの気分を安定させる神経伝達物質の分泌を促します。週に3〜5回、30分程度の運動を目安にしましょう。特に夕方に軽いウォーキングを行うと、体温が一時的に上がり、その後下がることで自然な眠気を誘いやすくなります。
  • ストレッチやヨガ: 柔軟性を高めるだけでなく、深い呼吸と連動することでリラクゼーション効果も期待できます。特に寝る前の軽いストレッチは、筋肉の緊張をほぐし、心地よい眠りへと導いてくれます。
  • 運動のタイミング: 就寝直前の激しい運動は、交感神経を刺激し、体温を上げてしまうため、避けるべきです。運動をするなら、就寝の3時間前までには終えるのが理想です。

食生活の見直し

食生活は、私たちの体調全般、特に自律神経の働きや睡眠の質に大きな影響を与えます。寝不足による動悸を軽減するためには、何を、いつ、どのように食べるかに注意を払うことが大切です。

カフェインやアルコールの制限

カフェインとアルコールは、自律神経に直接作用し、心拍数や睡眠の質に影響を与えるため、摂取量とタイミングに注意が必要です。

  • カフェイン: コーヒー、紅茶、エナジードリンク、チョコレートなどに含まれるカフェインは、中枢神経系を刺激し、覚醒作用を高めます。これにより、心拍数が増加し、動悸を誘発する可能性があります。特に、夕方以降の摂取は睡眠の質を著しく低下させるため、就寝の4~6時間前からは摂取を避けるようにしましょう。寝不足が続いている場合は、日中の摂取量も減らすか、ノンカフェイン飲料に切り替えることを検討してください。
  • アルコール: アルコールは一時的にリラックス効果をもたらすように感じられますが、睡眠の質を低下させます。特に、アルコールが体内で分解される過程でアセトアルデヒドという物質が生成されると、交感神経が刺激され、夜中に目が覚めやすくなったり、心拍数が増加したりすることがあります。就寝前のアルコール摂取は極力控え、もし飲む場合でも適量を守り、寝る数時間前までには飲み終えるようにしましょう。

バランスの取れた食事

偏った食生活は、栄養不足や消化器系への負担となり、自律神経の乱れや体調不良を招きます。以下の点に留意し、バランスの取れた食事を心がけましょう。

  • 豊富な栄養素: ビタミン、ミネラル、タンパク質、炭水化物、脂質の5大栄養素をバランスよく摂取することが基本です。特に、自律神経の機能や睡眠の質に関わる特定の栄養素に注目しましょう。
    • マグネシウム: 心臓の機能や神経の伝達に重要な役割を果たします。不足すると動悸や不整脈、不眠の原因となることがあります。ナッツ、種子、全粒穀物、ダークチョコレート、ほうれん草などの葉物野菜に豊富に含まれます。
    • カルシウム: 神経の興奮を鎮める作用があり、ストレス緩和に役立ちます。乳製品、小魚、大豆製品、緑黄色野菜などから摂取できます。
    • カリウム: 血圧の調整や心臓の正常な機能維持に必要です。バナナ、アボカド、イモ類、海藻類などに多く含まれます。
    • トリプトファン: 睡眠を促すメラトニンや、精神を安定させるセロトニンの原料となる必須アミノ酸です。乳製品、大豆製品、肉類、魚類、卵などに含まれ、特に牛乳やバナナは就寝前の摂取に適しているとされます。
    • ビタミンB群: 脳神経の働きをサポートし、疲労回復やストレス軽減に役立ちます。特にB6、B12、葉酸は重要です。肉類、魚類、卵、乳製品、緑黄色野菜、豆類などに幅広く含まれます。
  • 消化の良い食事: 就寝前の重い食事は消化にエネルギーを使い、内臓が休まらず、睡眠の質を低下させます。夕食は就寝の2〜3時間前までに終え、脂っこいものや辛いもの、消化に時間のかかるものは避け、温かく、消化の良いものを中心にしましょう。
  • 食事時間と規則性: 毎日決まった時間に食事を摂ることで、体内時計が整いやすくなります。特に朝食は、体内時計をリセットする上で重要な役割を果たすため、抜かずに摂ることを推奨します。

以下に、動悸の緩和に役立つ可能性のある食品と、避けるべき食品の例を表にまとめました。

種類 摂取を推奨する食品例 摂取を避けるべき食品例
飲料 水、ハーブティー(カモミール、ラベンダー)、カフェインレスコーヒー コーヒー、紅茶、エナジードリンク、アルコール飲料、炭酸飲料(糖分の多いもの)
食品 全粒穀物、ナッツ類、種子類(マグネシウム) 揚げ物、加工肉、ジャンクフード、高糖質の菓子、辛すぎるもの
ほうれん草、ブロッコリー、アボカド、バナナ(カリウム)
鶏むね肉、魚(特に青魚)、卵、乳製品(トリプトファン、ビタミンB群)
発酵食品(腸内環境を整える)

これらの食生活の見直しは、動悸だけでなく、全身の健康状態を改善し、より良い睡眠と快適な日常生活を送るための基盤となります。

病院受診の目安

寝不足による動悸は、多くの場合、生活習慣の改善で症状が和らぐ可能性がありますが、中にはより深刻な病気が隠されているケースも存在します。自己判断で済ませず、適切なタイミングで医療機関を受診することが非常に重要です。

どのような場合に医療機関を受診すべきか

動悸の症状は多岐にわたり、その感じ方も人それぞれです。しかし、以下のような特徴がある場合は、速やかに医療機関を受診することを強くお勧めします。

頻繁な動悸や強い胸の痛み

  • 動悸の頻度と強度:
    • 日常生活に支障が出るほど頻繁に動悸を感じる場合。
    • 寝不足を解消しても症状が改善しない場合。
    • 心臓が飛び出しそうなほど強く脈打つ、あるいは脈が飛ぶ、乱れるといった不規則な動悸を感じる場合。
    • 動悸が数分以上続く、または一度の動悸の発作が長時間続く場合。
  • 胸の痛み:
    • 胸が締め付けられるような、あるいは圧迫されるような強い痛みがある場合。
    • 痛みが左腕や肩、顎などに広がる場合(放散痛)。
    • 体を動かした時や階段を上った時に胸痛が誘発される場合。
    • 痛みが安静時にも起こる場合。
    • 動悸とともに冷や汗、意識の朦朧、めまいを伴う場合。

    これらの症状は、狭心症や心筋梗塞といった虚血性心疾患、または不整脈の可能性があるため、緊急性が高いと考えられます。

その他の気になる症状がある場合

動悸だけでなく、以下のような症状が同時に現れている場合は、心臓以外の病気や、全身性の疾患が関与している可能性も考慮し、医療機関を受診することが推奨されます。

  • 息苦しさや呼吸困難: 安静時にも息苦しさを感じる、横になると息が苦しくなる、咳を伴う、夜間に息苦しさで目が覚めるなどの症状。
  • めまいや失神: 立ち上がった時に目の前が真っ暗になる、ふらつき、意識を失う(失神)などの症状。脳への血流が一時的に不足している可能性があります。
  • 倦怠感や疲労感の持続: 十分な休息をとっても解消しない全身の倦怠感や、以前よりも明らかに疲れやすくなったと感じる場合。
  • 体重減少: 特にダイエットなどをしていないのに、急激に体重が減った場合。甲状腺機能亢進症など、動悸を引き起こす他の病気の可能性も考えられます。
  • むくみ: 足や顔がむくむ、靴がきつくなる、体重が増加するなどの症状。心臓のポンプ機能低下や腎臓の病気などが関係している可能性があります。
  • 発熱: 原因不明の発熱が続く場合。感染症や炎症性疾患が心臓に影響を及ぼしている可能性もあります。
  • 家族歴: 親兄弟に心臓病や不整脈の既往歴がある場合。遺伝的な要因が関与している可能性も考慮し、医師に伝えるべき情報です。

これらの症状は、寝不足による一過性の動悸とは異なる、より専門的な診断と治療が必要な状態を示唆している場合があります。不安を感じたら、迷わず医療機関を受診し、ご自身の状態を正確に伝えましょう。

専門医による診断と治療

動悸で病院を受診する際は、一般的には循環器内科が専門となります。しかし、心臓に器質的な問題がないと診断された場合は、自律神経の乱れやストレスが原因の可能性があるため、心療内科や精神科、または睡眠専門医への受診も視野に入れると良いでしょう。

不整脈の可能性

動悸の症状の裏には、様々な種類の不整脈が隠れている可能性があります。不整脈とは、心臓の拍動リズムが乱れる状態の総称で、自覚症状がないものから、命に関わる重篤なものまで多岐にわたります。医師は以下の診断方法を用いて、不整脈の有無や種類を特定します。

  • 心電図検査: 心臓の電気的な活動を記録し、不整脈の有無や種類を判断します。発作性の不整脈は、検査時に症状が出ていないと捉えられないこともあります。
  • ホルター心電図検査: 24時間以上、日常生活を送りながら心電図を記録する検査です。短時間の心電図では捉えにくい、一時的に現れる不整脈や、夜間の不整脈などを発見するのに有効です。
  • 心エコー検査: 超音波を用いて心臓の動きや形、血液の流れなどを観察します。心臓のポンプ機能の状態や、弁膜症などの構造的な異常がないかを確認できます。
  • 血液検査: 甲状腺機能異常や貧血など、不整脈を引き起こす可能性のある他の疾患がないかを調べます。
  • 運動負荷心電図: 運動中に心電図を記録し、運動によって誘発される不整脈や、心臓への負担を評価します。

診断された不整脈の種類や重症度に応じて、薬物療法(抗不整脈薬など)、カテーテルアブレーション(心臓内の異常な電気回路を焼灼する治療)、ペースメーカー植え込み術などの治療が検討されます。

睡眠障害の治療

寝不足が動悸の原因となっている場合、その背景に「睡眠障害」が隠れていることがあります。睡眠障害は、単なる寝不足以上に、心身の健康に深刻な影響を及ぼす可能性があります。

  • 不眠症: 寝つきが悪い(入眠困難)、夜中に何度も目が覚める(中途覚醒)、朝早く目が覚めてしまう(早朝覚醒)、眠りが浅く熟睡感がないなどの症状が続き、日中の生活に支障をきたす状態です。不眠症自体が自律神経を乱し、動悸の原因となります。
  • 睡眠時無呼吸症候群(SAS): 睡眠中に何度も呼吸が止まったり、浅くなったりを繰り返す病気です。いびきがひどい、日中に強い眠気がある、起床時に頭痛がするなどの症状が特徴です。睡眠中に一時的に酸素不足に陥り、心臓に大きな負担がかかるため、不整脈や高血圧、動悸の原因となることが非常に多いです。
  • むずむず脚症候群: 寝ている間に脚に不快な感覚(むずむず、かゆみ、痛みなど)が生じ、脚を動かさずにはいられない状態になる睡眠障害です。これにより入眠が妨げられたり、中途覚醒を引き起こしたりします。

これらの睡眠障害は、専門の医療機関(睡眠専門クリニックなど)で診断・治療を受けることが可能です。

  • ポリソムノグラフィー(PSG): 睡眠中の脳波、眼球運動、呼吸、心拍数、酸素飽和度、筋肉の動きなどを総合的に記録・分析する検査で、睡眠障害の診断に最も重要な検査です。
  • 治療法:
    • 不眠症: 睡眠薬の処方(一時的)、睡眠に関する認知行動療法、生活習慣の改善指導など。
    • 睡眠時無呼吸症候群(SAS): 経鼻的持続陽圧呼吸療法(CPAP療法)、口腔内装置(マウスピース)、外科的治療など。
    • むずむず脚症候群: 薬物療法(鉄剤、ドーパミン作動薬など)、生活習慣の改善など。

睡眠障害の適切な診断と治療を受けることで、根本的な寝不足が解消され、それによって引き起こされていた動悸の症状も改善に向かうことが期待できます。専門医の指導のもと、安心して治療を進めることが、心身の健康を取り戻す近道となります。

免責事項:
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の疾患の診断や治療を推奨するものではありません。記載された内容は医学的アドバイスに代わるものではなく、ご自身の症状については必ず専門の医療機関を受診し、医師の診断と指示に従ってください。自己判断による治療や医療行為は危険を伴う可能性があります。

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