傷病手当金|受給条件3つを解説!もらえないケースも紹介

傷病手当金は、病気や怪我で仕事ができなくなった際に、生活を支えるための
重要な公的制度です。しかし、「どんな時に」「いくら」「どうすれば」もらえるのか、
その条件や申請方法について疑問を持つ方も少なくありません。この制度を十分に
活用するためには、受給の要件を正しく理解することが不可欠です。本記事では、
傷病手当金を受け取るための4つの条件をはじめ、申請の流れ、具体的な支給額の
計算方法、そして「もらえないケース」やよくある質問まで、あなたが知りたい
情報を網羅的に解説します。安心して療養生活を送るために、傷病手当金の正しい
知識を身につけましょう。

傷病手当金とは?基本を理解しよう

傷病手当金の読み方・概要

「傷病手当金」は「しょうびょうてあてきん」と読み、会社員や公務員といった
健康保険の被保険者が、業務外の病気や怪我によって仕事を休まざるを得なくなり、
その期間に給与の支払いを受けられない場合に、生活保障のために支給される公的な
制度です。

この制度は、主に以下の健康保険に加入している方が対象となります。

  • 協会けんぽ(全国健康保険協会):中小企業の会社員などが加入しています。
  • 健康保険組合:大企業などが独自に設立している健康保険です。
  • 共済組合:公務員や私立学校教職員などが加入しています。

傷病手当金の目的は、被保険者が病気や怪我の療養に専念できるよう、経済的な
不安を軽減することにあります。支給期間は、支給が開始された日から最長で
通算1年6ヶ月と定められています。国民健康保険に加入している方には原則として
この制度はありませんが、ごく一部の自治体や国民健康保険組合で独自の給付
制度を設けている場合もありますので、確認してみる価値はあるでしょう。

傷病手当金が支給される目的

傷病手当金は、単に医療費を補助するだけでなく、被保険者の生活全体を支える
重要な役割を担っています。その主な目的は以下の通りです。

  • 生活保障と経済的安定: 病気や怪我で仕事ができない期間は、収入が途絶えたり
    大幅に減少したりします。傷病手当金は、この間の家計を支え、被保険者とその
    家族が最低限の生活を維持できるよう経済的なセーフティネットを提供します。
    これにより、収入の不安から生じるストレスを軽減し、精神的な負担を和らげます。
  • 療養専念と早期回復の支援: 経済的な心配がある中で治療に専念することは非常に
    困難です。傷病手当金があることで、金銭的な不安から無理をして仕事に戻ろう
    としたり、十分な治療を受けられなかったりすることを防ぎます。安心して療養に
    専念できる環境を提供し、病気や怪我の早期回復と職場復帰を促します。
  • 社会保障制度の一環としての機能: 傷病手当金は、労働者の健康と生活の安定を
    目的とした日本の社会保障制度の重要な柱の一つです。予測不能な病気や怪我の
    リスクから国民を守り、社会全体の安定に寄与しています。

この制度があるからこそ、多くの労働者が安心して働き続け、万が一の事態にも
対応できるのです。

傷病手当金 受給の4つの条件

傷病手当金を受け取るためには、以下の4つの条件をすべて満たしている必要が
あります。これらの条件はそれぞれ独立しているだけでなく、密接に関連し合って
いるため、一つでも欠けると支給の対象とはなりません。制度を正しく利用する
ために、一つずつ詳細に確認していきましょう。

1. 健康保険に加入していること

傷病手当金を受給する上で、最も基本的かつ不可欠な条件が「健康保険の被保険者
であること」です。この制度は、日本の公的医療保険制度の一部として運営されて
いるため、国民健康保険加入者は原則として対象外となります。

対象となる健康保険の種類と加入者

傷病手当金の対象となる健康保険は、主に以下の3種類です。

  1. 協会けんぽ(全国健康保険協会):
    • 全国の中小企業に勤める会社員やパート・アルバイトなどが加入しています。日本で最も加入者数の多い健康保険です。
  2. 健康保険組合:
    • 大企業や同業種の中小企業が集まって独自に設立している健康保険です。手厚い付加給付がある場合もあります。
  3. 共済組合:
    • 国家公務員、地方公務員、私立学校教職員などが加入している健康保険です。

国民健康保険との違い

自営業者、フリーランス、農業従事者、または会社を退職して健康保険の任意
継続や共済組合に加入していない方が加入する「国民健康保険」には、法律に
基づく傷病手当金の制度は原則として存在しません。国民健康保険は主に
医療費の給付を目的としており、休業中の所得保障は含まれていないためです。

ただし、例外的に以下のケースがあります。

  • 新型コロナウイルス感染症に関する特例: 2020年以降、新型コロナウイルス
    感染症に感染した(または感染が疑われる)国民健康保険加入者が、労務不能と
    なり給与等の支払いを受けられなかった場合、一時的に傷病手当金に準ずる給付
    を受けられる制度が設けられました。この特例措置は期限が定められていますので、
    最新の情報は各自治体の国民健康保険窓口でご確認ください。
  • 一部の国民健康保険組合の独自給付: ごく稀に、特定の業種で組織されて
    いる国民健康保険組合などにおいて、独自の規約に基づき傷病手当金に準ずる
    給付を行っている場合があります。ご自身が加入している国民健康保険組合の
    規約を確認するか、直接問い合わせてみましょう。

退職後の継続給付について

健康保険の被保険者であった期間が1年以上ある場合、退職後も一定の条件を
満たせば、傷病手当金の継続給付を受けられる可能性があります。これは、退職
時点で傷病手当金の受給要件を満たしており、かつ引き続き労務不能である
場合に適用される特別な措置です。詳細は後述の「傷病手当金に関するよくある
質問」で解説します。

表:健康保険の種類と傷病手当金の有無、主な特徴

健康保険の種類 傷病手当金の有無 主な加入者 特徴
協会けんぽ あり 中小企業の会社員、パート・アルバイト 全国共通の制度、標準的な給付内容
健康保険組合 あり 大企業の会社員、グループ企業社員 独自規約で付加給付がある場合も、福利厚生が充実
共済組合 あり 公務員、私立学校教職員など 職域に応じた手当や共済事業が充実
国民健康保険 原則なし 自営業者、フリーランス、無職 医療費給付が主、休業補償は基本含まれない

2. 療養のため労務不能であること

傷病手当金を受給するための二つ目の重要な条件は、「療養のために労務不能で
あること」です。この「労務不能」という状態の判断が、申請の成否を大きく
左右します。

傷病手当金は病気や怪我の条件を満たす必要がある

傷病手当金が適用される病気や怪我には、いくつかの条件があります。

  • 業務外の事由であること:
    • 傷病手当金は、業務中や通勤中に発生した病気や怪我(業務災害・通勤災害)
      には適用されません。これらの場合は、代わりに「労災保険」からの休業補償
      給付が支給されます。
    • 私的な時間(自宅での生活、プライベートな旅行など)に起因する病気や怪我が
      対象となります。
  • 対象となる傷病の範囲:
    • 風邪やインフルエンザといった一般的な病気はもちろん、骨折、がん、脳疾患、
      心疾患などの身体的な病気や怪我のほとんどが対象となります。
    • 近年増加しているうつ病や適応障害、パニック障害といった精神疾患も、
      医師の診断に基づき労務不能と判断されれば、傷病手当金の対象となります。
      精神科医の診断書が不可欠です。
    • 自宅療養も含む: 必ずしも入院している必要はありません。医師の指示により
      自宅で安静にしている場合や、通院治療のため仕事ができない場合も対象と
      なります。
    • 対象外となる可能性のあるケース:
      • 美容整形や審美歯科など、病気の治療を目的としない保険診療外の自由診療
        による療養。
      • 健康増進や予防目的の休業(例:人間ドックの受診日など)。
      • 原因が特定できない、医師の診断書が得られない病状。

労務不能の判断基準

「労務不能」であるかどうかの判断は、非常にデリケートであり、以下の要素を
総合的に考慮して行われます。

  • 医師の医学的判断が最重要:
    • 傷病手当金の申請には、必ず医師による「労務不能である」旨の証明
      記載された診断書、または傷病手当金支給申請書の「療養担当者記入用」の
      部分が必要です。医師は、診断名、病状の重さ、治療内容(手術、投薬、
      リハビリなど)、回復の見込み、日常生活への影響(ADL: Activities of
      Daily Living)などを総合的に評価し、医学的な観点から就労の可否を
      判断します。
    • 自己判断で「仕事ができない」と感じるだけでは不十分であり、客観的な
      医学的根拠が必要です。
  • 従事している業務の内容:
    • 同じ病気や怪我であっても、被保険者が従事している職種や具体的な業務
      内容によって、労務不能の判断は大きく異なります。
    • 例1(肉体労働者): 軽度のぎっくり腰でも、重い物を運ぶ、長時間
      立ちっぱなしといった業務が多い場合、労務不能と判断されやすいです。
    • 例2(デスクワーカー): 軽度のぎっくり腰であれば、座ってのデスク
      ワークは可能と判断され、労務不能とまではいかないケースもあります。
      しかし、例えば眼精疲労が激しくパソコン画面を見続けることができない、
      うつ病で集中力や判断力が著しく低下しているといった場合は、デスク
      ワークであっても労務不能と判断されます。
    • 「通常の業務」への従事の可否: 重要なのは、その人が「これまで行っていた
      通常の業務」に全く、あるいは実質的に従事できない状態であるかという
      点です。会社が提供する軽易な業務に一時的に就けたとしても、通常の業務
      ができない場合は労務不能と認められることがあります。
  • 客観性と個別性:
    • 判断は画一的ではなく、個々の被保険者の病状、体力、年齢、職種、
      職場環境などを考慮した個別具体的なものとなります。
    • 会社からの「休職命令」があったとしても、それだけでは労務不能とは
      認められません。医師の医学的判断が最も重視されます。
  • 診断書の内容確認:
    • 医師に診断書を書いてもらう際は、ご自身の仕事内容や症状によって
      どのような支障が出ているかを具体的に伝え、労務不能期間が適切に
      記載されているかを確認しましょう。期間が「未定」となっている
      場合は、健康保険組合から追加確認を求められることがあります。

3. 連続した3日間(待期期間)は休んでいること

傷病手当金が実際に支給されるためには、「待期期間」と呼ばれる3日間の休業
期間をクリアする必要があります。この条件は、支給開始のトリガーとなる重要な
ものです。

傷病手当金 待期期間とは

  • 定義: 療養のため労務不能となり、連続して3日間仕事を休んだ期間を
    「待期期間」と呼びます。この3日間は傷病手当金の支給対象にはなりませんが、
    この期間を満たすことで、その後の休業期間が支給対象となります。
  • 「連続した3日間」の重要性:
    • 待期期間の最も重要な点は「連続性」です。途中で1日でも仕事をしてしまうと、
      連続性が途切れ、待期期間は成立しません。その場合、再度連続して3日間
      休む必要があります。
    • 例: 月曜・火曜と休んで水曜日に出社した場合、月曜・火曜は待期期間の
      カウントになりません。木曜から再度連続した休業が始まった場合、木曜から
      1日目としてカウントし直すことになります。
  • 給与の有無は問わない:
    • 待期期間の3日間は、給与が支払われたかどうかは関係ありません。有給休暇を
      使って休んだ日、土日祝日などの公休、欠勤扱いの日など、「労務に服さなかった
      日」が連続していればカウントされます
    • 例えば、有給休暇を使いながら3日間連続で休んだ場合でも待期期間は成立します。
  • 待期期間の数え方:
    • 待期期間の最終日: 連続して3日間休んだ場合、3日目が待期期間の完了日と
      なります。
    • 支給開始日: 傷病手当金の支給は、待期期間が完了した翌日(4日目)から
      となります。
    • 具体例:
      • 月曜、火曜、水曜と欠勤または有給休暇で休んだ場合:水曜日で待期期間が
        完了。木曜日からが支給対象期間となります。
      • 金曜、土曜、日曜と休んだ場合:日曜で待期期間が完了。月曜日からが支給
        対象期間となります。土日などの公休日も、労務に服さなかった日として
        カウントされます。
      • 木曜、金曜と休んで、土日を挟み、月曜に復帰した場合:待期期間は成立
        しません(連続3日を満たしていないため)。

表:待期期間の数え方と支給開始日の関係

日付 状況 待期期間 支給対象 備考
月曜日 病気で欠勤 1日目
火曜日 病気で欠勤 2日目
水曜日 病気で欠勤 3日目 待期期間完了!
木曜日 病気で欠勤 ここから傷病手当金支給の対象
金曜日 病気で欠勤
土曜日 (公休) 土日祝日も労務不能なら支給対象(給与不支給なら)
日曜日 (公休)
月曜日 有給休暇 1日目 有給でも待期期間にカウントされる
火曜日 有給休暇 2日目
水曜日 有給休暇 3日目 待期期間完了!
木曜日 出社 待期期間後の出社はOK
金曜日 病気で欠勤 ここから傷病手当金支給の対象

待期期間が成立すれば、その後の休業期間(ただし、支給要件を満たす期間に
限る)は全て支給対象となり得ます。一度待期期間が成立すれば、同じ病気や
怪我で再び休業した際に、再度3日間の待期期間を設ける必要はありません。

4. 給与の支払いを受けていないこと

傷病手当金を受給する最後の条件は、「給与の支払いを受けていないこと」です。
この制度は、病気や怪我で働けない間の生活費の穴埋めを目的としているため、
収入がある場合はその分が調整されることになります。

  • 原則として給与不支給:
    • 休業期間中、会社から給与(基本給、各種手当、残業代など、労働の対価と
      して支払われるもの)が一切支払われていないことが、傷病手当金満額支給の
      基本的な条件です。
    • 通勤手当や賞与など、労働の対価とはみなされないもの(労働協約や就業規則
      で定められている場合)については、通常、傷病手当金の支給額に影響を
      与えません。

給与の一部支給との関係

休業期間中に会社から給与の一部が支払われた場合でも、傷病手当金を受け取れ
るケースがあります。この場合、支給額の調整が行われます。

  • 差額支給の原則:
    • 会社から支払われた給与の日額が、傷病手当金として本来支給されるべき
      1日あたりの金額よりも少ない場合、その差額が傷病手当金として支給されます。
    • 計算式: 傷病手当金日額 - 会社から支払われた給与日額 = 支給される
      傷病手当金日額
    • 例:
      • あなたの傷病手当金日額が7,000円だとします。
      • 休業中に会社から、特別手当として1日あたり2,000円が支払われました。
      • この場合、差額の5,000円(7,000円 - 2,000円)が傷病手当金として
        支給されます。
  • 給与額が傷病手当金以上の場合:
    • 会社から支払われた給与の日額が、傷病手当金として本来支給されるべき
      1日あたりの金額と同額かそれ以上である場合、傷病手当金は支給されません。
  • 社会保険料・税金の控除:
    • 会社から給与が支払われた場合、そこから社会保険料(健康保険料、
      厚生年金保険料、雇用保険料)や所得税、住民税が控除されることがあります。
      しかし、傷病手当金の支給額を計算する際の「会社から支払われた給与」とは、
      これらの控除前の額面を指します。手取り額で比較するわけではない点に
      注意が必要です。
  • 待期期間中の給与支払い:
    • 待期期間の3日間について会社から給与が支払われたとしても、それは待期
      期間の成立に影響しません。待期期間は「労務に服さなかった」ことの事実で
      成立するためです。ただし、待期期間後の傷病手当金が支給される期間に
      給与が支払われた場合は、上記の差額支給の調整対象となります。

この条件は、あくまでも生活保障の観点から設けられているため、収入が途絶える
ことによる経済的負担を軽減するためのものです。給与の一部を受け取っているから
といって、すぐに諦めずに、まずは支給額の計算と差額の可能性を確認してみま
しょう。

傷病手当金 申請方法・流れ

傷病手当金の申請は、いくつかの段階を経て行われます。必要な書類を揃え、
正しい手順で申請することで、スムーズな給付につながります。

申請に必要な書類

傷病手当金の申請には、「健康保険傷病手当金支給申請書」を使用します。この
申請書は、主に以下の3つのパートから構成されており、それぞれ異なる人が記入
するようになっています。

  1. 被保険者記入用(ご自身で記入)
    • 内容: 申請者の氏名、生年月日、住所、マイナンバー、傷病名、発病
      年月日、初めて医師の診察を受けた日、療養のために休んだ期間、
      休業期間中の給与支払い状況、世帯状況(世帯主の氏名、被保険者との
      続柄など)、振込先の金融機関情報など。
    • ポイント: 虚偽の申請は不正受給につながるため、正確に記入しましょう。
      特に、休業期間中に会社から支給された給与の有無とその金額は正確に
      記載する必要があります。
  2. 事業主記入用(会社に記入を依頼)
    • 内容: 被保険者の所属、事業所の名称・所在地、被保険者の休業期間
      中の出勤状況(労務に服さなかった日)、休業期間中の給与支払い状況
      (賃金台帳に基づいた金額)、標準報酬月額など。
    • ポイント: 会社(事業主)が、あなたが労務不能で休業していたこと、
      その期間に給与が支払われていない(または一部しか支払われていない)
      ことを証明する重要な部分です。担当部署(人事・総務など)に早めに
      依頼し、必要書類を提出しましょう。
  3. 療養担当者記入用(医師に記入を依頼)
    • 内容: 医師の氏名、医療機関名、傷病名、発病年月日、被保険者の療養
      期間、労務不能と認めた期間、治療内容や経過、今後の見込み、
      診断した年月日など。
    • ポイント: あなたが「療養のため労務不能である」ことを医学的に証明する
      部分です。受診している病院やクリニックの医師に記入を依頼して
      ください。この証明がないと、傷病手当金は原則として支給されません。

これらの申請書の他に、健康保険の種類や個別の状況によっては、以下の
書類の添付を求められる場合があります。

  • 賃金台帳のコピー: 会社から支給された給与額を確認するために必要です。
  • 出勤簿(タイムカード)のコピー: 労務に服さなかった日を証明するために
    必要です。
  • 住民票の写し: 退職後の継続給付の場合など、被保険者と世帯主の関係を
    確認するために必要となることがあります。

表:傷病手当金申請に必要な主な書類と記入者

書類名 記入者 主な内容 備考
健康保険傷病手当金支給申請書(被保険者記入用) 被保険者(申請者ご自身) 個人情報、休業期間、給与状況、振込先口座など 正確な情報記入が重要
健康保険傷病手当金支給申請書(事業主記入用) 会社の人事・総務担当者 出勤状況、給与支給状況、標準報酬月額など 会社からの証明。早期の依頼が必要
健康保険傷病手当金支給申請書(療養担当者記入用) 医師 傷病名、療養期間、労務不能と認めた期間など 医師の医学的証明。診断書を別途添付する場合もある
賃金台帳のコピー(会社保管) (必要に応じて) 給与支払いの履歴 会社の協力が必要
出勤簿のコピー(会社保管) (必要に応じて) 出勤・欠勤の履歴 会社の協力が必要
住民票の写し (必要に応じて) 世帯状況など 退職後の継続給付など特定のケースで求められる

会社・事業主の証明について

傷病手当金の申請において、会社(事業主)の協力は非常に重要です。申請書
の一部を会社に記入してもらう必要があるため、円滑な手続きのためには
会社とのコミュニケーションが不可欠となります。

  • 会社への依頼手順:
    1. 早めに相談: 休業が決まったら、なるべく早く会社の人事部または
      総務部に傷病手当金の申請をしたい旨を伝え、手続きについて相談しましょう。
    2. 申請書の提出: 協会けんぽや健康保険組合のウェブサイトから
      ダウンロードした申請書のうち、「事業主記入用」の部分を会社に渡し、
      記入を依頼します。
    3. 添付書類の準備依頼: 会社が記入する際に必要となる、賃金台帳や
      出勤簿などのコピーの準備も併せて依頼しましょう。
  • 会社側の協力義務と負担:
    • 会社には、従業員が社会保険の給付を受けるための手続きに協力する義務が
      あります。これは、健康保険法に基づいています。
    • しかし、会社にとって記入作業や資料準備は一定の事務負担となることも
      事実です。特に中小企業では、人事担当が他の業務と兼任していることも多く、
      手続きが遅れる可能性もあります。
  • 会社が協力しない場合の具体的な対応:
    残念ながら、会社によっては傷病手当金の申請に協力的でない、あるいは
    手続きを嫌がるケースも存在します。そのような場合の対応策は以下の通りです。

    1. 加入している健康保険に相談:
      • まず、ご自身が加入している健康保険(協会けんぽの支部、健康保険組合
        など)に直接連絡し、会社が協力してくれない状況を説明しましょう。健康
        保険の担当部署から会社に対し、協力要請や制度説明を行ってくれる
        場合があります。これは最も効果的な第一歩となることが多いです。
    2. 労働基準監督署に相談:
      • 会社が明らかに健康保険法上の協力義務を怠っていると判断される場合は、
        労働基準監督署に相談することも考えられます。労働基準監督署は、労働者
        の権利保護を目的とする行政機関です。直接的に傷病手当金の手続きを
        強制する権限はありませんが、健康保険制度に関する会社の不当な対応
        について指導を行ったり、適切な機関への案内をしてくれたりする
        可能性があります。
    3. 弁護士への相談:
      • 上記の方法でも解決しない場合や、会社との関係がこじれてしまっている
        場合は、労働問題に詳しい弁護士に相談することも検討しましょう。弁護士
        は、法的な観点から会社に対し、協力義務を履行するよう求めることが
        可能です。

会社との良好な関係を保ちつつ、自身の権利を行使できるよう、丁寧な
コミュニケーションと、必要に応じて外部機関への相談を検討することが
大切です。

申請期間・いつからいつまで?

傷病手当金には、申請できる期間(時効)が定められています。この時効を
過ぎてしまうと、いくら受給条件を満たしていても手当は受け取れません。

  • 時効の起算日:
    • 傷病手当金の時効は、「賃金を受けなかった日ごとに、その翌日から2年」
      です。
    • 例えば、1月15日に休んだ分の傷病手当金については、1月16日から2年間が
      その1日分の傷病手当金の申請時効となります。1月31日に休んだ分は2月1日
      から2年間、というように、日ごとに時効が進行します。
  • 長期休業の場合の注意点:
    • 例えば、1年間休業した場合、最初の月の傷病手当金は1年が経過するから
      前1から時効のカウントが始まっています。
    • そのため、長期休業の場合は、まとめて申請するのではなく、1ヶ月ごとなど
      定期的に申請を行う
      ことを強くお勧めします。これにより、時効による
      申請漏れを防ぐことができます。
  • 申請の遅れ: 申請が遅れても、時効期間内であれば遡って申請することは
    可能です。ただし、過去に遡って医師に「療養担当者記入用」を記載してもらう
    ことになりますので、医師の記憶が曖昧になったり、手間がかかったりする
    可能性もあります。できるだけ、休業期間が終わり次第、または数ヶ月単位
    で区切って速やかに申請手続きを進めるのが賢明です。

例:休業期間と時効

休業開始日 休業終了日 支給対象期間 申請書の提出時期(推奨) 時効(最終申請可能日)
1月1日 1月31日 1月4日~1月31日 2月上旬 翌々年の2月1日
3月1日 5月31日 3月4日~5月31日 4月上旬、6月上旬 翌々年の6月1日

申請が遅れた場合でも、時効期間内であれば遡って申請することは可能です。ただし、
医師の証明が必要となるため、過去の診断書取得や記入依頼の手間がかかることが
あります。できるだけスムーズに手続きを進めるためにも、休業が決まったら早めに
会社や健康保険に相談し、申請の準備に取り掛かりましょう。

傷病手当金がもらえないケース

傷病手当金は多くの労働者にとって重要な制度ですが、特定の状況下では支給され
ない、あるいは支給額が調整される場合があります。自身の状況が該当しないか、
事前に確認しておくことが大切です。

労災保険(休業補償給付)との関係

  • 業務上の病気・怪我、通勤災害の場合:
    • 病気や怪我の原因が「業務上」または「通勤中」の事故や災害によるものである
      場合、傷病手当金の対象とはなりません。この場合は、「労災保険」からの
      休業補償給付
      が支給されます。
    • 労災保険の休業補償給付は、待期期間が3日間(この間の賃金は会社が支払う
      義務がある)である点や、支給額が平均賃金の8割(休業補償給付6割+
      休業特別支給金2割)である点など、傷病手当金とは異なる制度です。
    • 判断の基準: 業務と傷病との間に因果関係があるかどうかが判断の
      ポイントです。例えば、仕事中の事故による骨折や、特定の業務に起因する
      職業病(例:アスベストによる肺疾患など)は労災に該当します。
    • どちらの制度が適用されるか判断が難しい場合は、会社の人事担当者、
      労働基準監督署、または労働災害に詳しい弁護士に相談することをお勧め
      します。

会社から給与が支払われている場合

  • 支給額の調整: 傷病手当金は、休業中の所得を保障する目的があるため、
    会社から給与が支払われている場合は支給額が調整されます。

    • 給与額が傷病手当金日額より少ない場合: 傷病手当金日額から給与日額を
      差し引いた差額が支給されます。
    • 給与額が傷病手当金日額と同額かそれ以上の場合: 傷病手当金は支給され
      ません。
  • 対象となる「給与」: ここでいう給与とは、労働の対価として支払われる
    基本給、各種手当(役職手当、住宅手当など)、残業代などが含まれます。
    通勤手当や賞与など、労働の対価ではないと判断されるものは、通常、
    調整の対象外です。
  • 給与の定義: 傷病手当金の調整対象となる給与は、税金や社会保険料を
    差し引く前の額面で判断されます。手取り額ではない点に注意が
    必要です。

待期期間中の欠勤について

  • 連続性が途切れると: 傷病手当金の受給条件の一つである「連続した3日間
    の待期期間」が正しく成立しないと、その後の休業期間に対する傷病手当金
    は支給されません。

    • 待期期間が成立しない具体例:
      • 月曜、火曜と休み、水曜日に半日でも出社した場合、待期期間の連続性が
        途切れます。木曜から再び休業したとしても、木曜から改めて1日目として
        待期期間のカウントが始まります。
      • 待期期間中に1日でも労務に服してしまうと、それまでのカウントは無効と
        なります。
    • 正しい待期期間の理解:
      • 待期期間中の3日間は、有給休暇、欠勤、土日祝日など、どんな理由で
        休んだとしても「労務に服さなかった日」であればカウントされます。
        給与の有無は問いません。
      • 重要なのは、「連続して3日間」であるという点です。

その他、受給できないケース

上記の他にも、傷病手当金が支給されない、あるいは申請が困難なケースが
あります。

  • 国民健康保険の加入者: 前述の通り、国民健康保険には原則として
    傷病手当金の制度がないため、加入者は支給対象外です。(新型コロナウイルス
    感染症に関する特例や一部組合の独自給付を除く)。
  • 健康保険の資格喪失後の継続給付の要件を満たさない場合:
    • 退職後に傷病手当金を受け取るためには、「退職日までに継続して1年以上の
      被保険者期間があること」と「退職日時点で傷病手当金の受給要件を満たしている
      こと(現に支給を受けているか、待期期間を完了し労務不能の状態にある
      こと)」などの厳しい条件があります。これらの条件のいずれか一つでも満た
      さない場合は、継続給付は受けられません。
  • 医師の証明がない場合:
    • 「労務不能」であることの医学的証明は不可欠です。自己判断での休業や、
      医師の診断書が得られない病状の場合は、傷病手当金は支給されません。
  • 美容目的などの自由診療:
    • 傷病手当金の対象となるのは、病気や怪我の治療を目的とした「療養」です。
      美容整形、審美歯科、脱毛など、健康保険が適用されない自由診療や、
      単なる健康維持・増進のための休業は対象外です。
  • 傷病手当金よりも高額な他の給付を受けている場合:
    • 健康保険から支給される他の手当(例:出産手当金など)と同一の期間について
      受給権がある場合、原則として両方を同時に受け取ることはできません。通常
      はどちらか高額な方が支給されるか、調整が行われます。
    • また、障害年金や老齢年金など、他の公的年金を受給している場合も調整の
      対象となります。原則として、傷病手当金と障害年金(または老齢年金)は
      併給調整され、傷病手当金の方が低額になる場合は、傷病手当金は支給され
      ません。ただし、例外規定もあるため、詳細は年金事務所や健康保険組合に
      確認が必要です。
  • 海外での療養:
    • 原則として、日本国内の医療機関での療養が前提となります。海外での療養
      についても、条件付きで給付を受けられる場合がありますが、手続きが複雑に
      なるため事前に健康保険組合に相談が必要です。

これらのケースに該当しないか、ご自身の状況をよく確認し、不明な点があれば
必ず健康保険の窓口に問い合わせるようにしましょう。

傷病手当金に関するよくある質問

傷病手当金は、いざという時に頼りになる制度ですが、その仕組みは複雑に感じ
られることも少なくありません。ここでは、多くの方が疑問に思う点について、
具体的な例を交えながら詳しく解説します。

傷病手当金はいくらもらえる?計算方法

傷病手当金の支給額は、あなたの給与額を基に算出されます。具体的な計算式は
以下の通りです。

1日あたりの支給額 = (支給開始日以前12ヶ月間の各月の標準報酬月額を
平均した額 ÷ 30日) × 2/3

  • 標準報酬月額とは?
    • 健康保険や厚生年金保険の保険料を計算する際の基礎となる金額です。あなたの
      月々の給与を一定の幅で区切った「等級」に当てはめて決定されます。毎年4
      月から6月までの給与を基に、その年の9月から翌年8月までの標準報酬月額
      が決定されます(定時決定)。
  • 支給開始日以前12ヶ月間の平均:
    • 傷病手当金の支給が始まる日(待期期間満了後、最初に支給対象となった日)
      以前12ヶ月間に遡り、それぞれの月の標準報酬月額を合計し、12で割って
      平均額を算出します。
    • もし、被保険者期間が12ヶ月に満たない場合は、以下のいずれか低い方の金額を
      基に計算します。

      • その期間の標準報酬月額の平均額
      • 加入している健康保険の全被保険者の標準報酬月額の平均額

計算例:
仮に、あなたの支給開始日以前12ヶ月間の標準報酬月額の平均が270,000円
だったとします。

  1. 標準報酬日額の算出: 270,000円 ÷ 30日 = 9,000円
  2. 1日あたりの傷病手当金: 9,000円 × 2/3 = 6,000円

この場合、1日あたり6,000円の傷病手当金が支給されます。1ヶ月(30日)
休業した場合、約180,000円が支給される計算です。

手取り20万の場合の傷病手当金

「手取り20万円」という情報は、社会保険料や税金が控除された後の金額である
ため、傷病手当金の計算の基となる「標準報酬月額」とは直接的な関係がありません。
しかし、手取りからおおよその額面給与、そして標準報酬月額を推定することは
可能です。

【手取り20万円から標準報酬月額を推定するケーススタディ】

一般的に、額面給与から約15%~25%が社会保険料と税金で引かれることが多いです
(扶養家族の有無、住む地域、年齢などによって変動)。手取り20万円を得る
ためには、おおよそ24万円~27万円程度の額面給与が必要となるでしょう。

ここでは、仮にあなたの額面給与が25万円で、それに伴う標準報酬月額が
24万円
であったと仮定して計算してみます。

  • 標準報酬月額: 240,000円
  • 標準報酬日額: 240,000円 ÷ 30日 = 8,000円
  • 1日あたりの傷病手当金: 8,000円 × 2/3 = 約5,333円

もし1ヶ月(30日)間、全く給与が支払われずに休業した場合:

  • 支給される傷病手当金の合計額: 約5,333円 × 30日 = 約159,990円

ポイント:

  • これはあくまで推定の計算であり、実際の支給額は、あなたの正確な標準報酬
    月額(加入している健康保険の「標準報酬月額決定通知書」などで確認できます)
    に基づいて計算されます。
  • 休業期間中に会社から給与の一部が支払われた場合は、上記の計算額からその
    給与額が差し引かれて支給されます。
  • 支給された傷病手当金は非課税ですので、この約16万円がそのまま受け取れる
    金額になります。

正確な金額を知りたい場合は、ご自身の標準報酬月額を確認し、健康保険組合
(または協会けんぽ)に問い合わせるのが最も確実です。

傷病手当金 申請期間はいつまで?

傷病手当金には、「時効」と呼ばれる申請期限が定められています。この期限
を過ぎてしまうと、いくら受給条件を満たしていても手当は受け取れません。

  • 時効の起算日: 傷病手当金の時効は、「賃金を受けなかった日ごとに、その
    翌日から2年」
    です。
  • 具体的な例:
    • 1月1日に休業して給与が支払われなかった場合、1月2日から2年間がその1日
      分の傷病手当金の申請時効となります。
    • 休業期間が2ヶ月にわたる場合、最初の休業日の翌日から2年、最後の休業
      日の翌日から2年というように、日ごとに時効が進行していきます。
  • 長期休業の場合の注意点:
    • 例えば、1年間休業した場合、最初の月の傷病手当金は1年が経過する前から
      時効のカウントが始まっています。
    • そのため、長期休業の場合は、まとめて申請するのではなく、1ヶ月ごとなど
      定期的に申請を行う
      ことを強くお勧めします。これにより、時効による
      申請漏れを防ぐことができます。
  • 申請の遅れ: 申請が遅れても、時効期間内であれば遡って申請することは
    可能です。ただし、過去に遡って医師に「療養担当者記入用」を記載してもらう
    ことになりますので、医師の記憶が曖昧になったり、手間がかかったりする
    可能性もあります。できるだけ、休業期間が終わり次第、または数ヶ月単位
    で区切って速やかに申請手続きを進めるのが賢明です。

傷病手当金 支給期間は最長いつまで?

傷病手当金には、支給される期間に上限があります。

  • 支給開始日から通算して1年6ヶ月:
    • 傷病手当金は、支給が開始された日(待期期間満了後、最初に支給の
      対象となった日)から通算して1年6ヶ月が支給期間の上限です。
    • この「通算して」という言葉の意味が、2022年1月1日以降の改正で変更されて
      います。

【2022年1月1日改正後の「通算して1年6ヶ月」】

  • 実際に傷病手当金が支給された期間のみを合計します。
  • 途中で仕事に復帰し、傷病手当金の支給が一時的に停止された期間は、1年6ヶ月
    のカウントには含まれません。
  • その後、同じ病気や怪我で再び労務不能となり休業した場合、残りの支給期間が
    あれば、その期間まで支給されます。

改正前との比較

項目 改正前(2021年12月31日以前) 改正後(2022年1月1日以降)
支給期間の上限 支給開始日から暦の上で1年6ヶ月 支給開始日から通算して1年6ヶ月
途中の復職 復職期間も1年6ヶ月に算入される 復職期間は1年6ヶ月に算入されない
1年受給後半年復職→残0ヶ月 1年受給後半年復職→残6ヶ月(実際に支給された期間のみカウント)
目的 柔軟な働き方を支援、復職促進

この改正により、病気や怪我の治療のために断続的に休業が必要な場合でも、
より長く制度を利用できるようになり、被保険者の生活保障が強化されました。

支給期間の上限に達すると、それ以降は同じ病気や怪我、またはそれに関連する
病気や怪我では傷病手当金は支給されません。長期間にわたる療養の場合は、
この期間上限を考慮した上で、今後の生活設計や治療計画を立てる必要があります。

傷病手当金 会社 嫌がる?対応について

傷病手当金の申請は、従業員の正当な権利です。しかし、一部の会社では、申請
手続きに難色を示したり、協力を嫌がったりするケースが実際に存在します。その
背景と対応策を理解しておくことが重要です。

会社が申請を嫌がる主な理由:

  1. 事務手続きの負担: 傷病手当金支給申請書には、事業主が記入する項目が多く、
    従業員の出勤簿や賃金台帳の確認、支給額の計算、証明書の作成など、一定の
    事務作業が発生します。特に、人事・総務体制が手薄な中小企業では、この負担
    が重く感じられることがあります。
  2. 健康保険料・年金保険料の会社負担: 従業員が休業し、給与が支払われて
    いない期間であっても、会社は従業員の健康保険料や厚生年金保険料の会社
    負担分を支払い続ける必要があります。給与が出ていないのに費用が発生する
    ことに、会社側が不満を感じるケースも稀にあります。
  3. 休職者に対する複雑な感情: 従業員の長期休職は、会社の生産性低下、
    他の従業員への業務負担増、人員補充のコストなど、会社経営に少なからず
    影響を与えます。このため、制度の利用を積極的に推奨しない、あるいは
    消極的な姿勢をとることがあります。
  4. 制度への理解不足: 会社側が傷病手当金制度について十分に理解して
    おらず、手続きの重要性や法的義務を認識していない場合もあります。

会社が協力しない場合の具体的な対応策:

会社には、従業員が健康保険の給付を受けるための手続きに協力する法的義務
があります。もし会社が協力を拒否したり、不利益な取り扱いをしたりする
場合は、以下の対応を検討しましょう。

  1. 冷静に会社の意図を確認する:
    • まずは、会社がなぜ協力してくれないのか、その理由を具体的に尋ねてみま
      しょう。誤解や情報不足があるかもしれません。制度の目的や重要性を
      説明することで、理解を得られる可能性もあります。
  2. 加入している健康保険(協会けんぽ・健康保険組合)に相談する:
    • 最も効果的なのは、ご自身が加入している健康保険の窓口に相談すること
      です。健康保険の担当部署は、制度に関する専門家であり、会社に対して
      制度の説明や協力要請を行ってくれる場合があります。これは、会社に
      直接交渉するよりも客観的な立場からの働きかけとなるため、受け入れ
      られやすい傾向にあります。
  3. 労働基準監督署に相談する:
    • 会社が明らかに健康保険法上の協力義務を怠り、労働者の権利行使を
      妨害していると判断される場合は、労働基準監督署に相談することも
      検討しましょう。労働基準監督署は、労働者の権利保護を目的とする
      行政機関であり、会社の不当な対応について指導を行うことができます。
  4. 弁護士に相談する:
    • 上記の対応でも問題が解決しない場合や、会社との関係が既にこじれて
      しまっている場合は、労働問題に詳しい弁護士に相談することが最終的な
      手段となることもあります。弁護士は、法的な観点から会社に対し、
      協力義務の履行を求めたり、必要に応じて法的手続きを進めたりすることが
      可能です。

従業員の正当な権利である傷病手当金の申請を諦める必要はありません。一人で
抱え込まず、適切な機関に相談し、自身の権利を行使しましょう。

その他、傷病手当金に関するQ&A

Q1: 傷病手当金と育児休業給付金、介護休業給付金は併給できる?

A1: いいえ、原則として併給はできません

  • これらの給付金は、いずれも雇用保険または健康保険から支給される休業中の
    生活保障を目的とした制度です。
  • 同一の期間について複数の給付を受ける権利がある場合、いずれか一つのみが
    支給されることになります。
  • 原則として、育児休業給付金や介護休業給付金が優先されることが多いですが、
    個別の状況によって調整が行われます。不明な場合は、ハローワークまたは
    健康保険組合に確認が必要です。

Q2: 診断書の費用は健康保険が適用される?

A2: いいえ、傷病手当金申請のための診断書や「療養担当者記入用」の文書
作成費用は、健康保険の適用外であり、自己負担となります

  • これは、診断書作成が治療行為そのものではなく、行政手続きに必要な書類
    作成とみなされるためです。
  • 費用は医療機関によって異なりますが、一般的に数千円程度かかることが多い
    です。

Q3: 会社を辞める前に傷病手当金を申請すべき?

A3: 退職を考えている場合でも、退職日までに傷病手当金の受給要件を
満たし、申請を開始しておくことを強く推奨します。

  • 退職後の継続給付の条件: 退職後に傷病手当金の支給を継続するには、
    退職日時点で既に傷病手当金を受給しているか、少なくとも待期期間を
    満たし、労務不能の状態にあることが必須条件です。
  • 退職日より前に、医師による労務不能の証明を得て、待期期間を成立させて
    おく必要があります。
  • 退職後に初めて申請しようとしても、継続給付の条件を満たせなくなる
    可能性が高いです。退職を検討する前に、必ず健康保険組合に相談し、
    必要な手続きを確認しましょう。

Q4: アルバイトやパートで健康保険に加入する条件は?

A4: アルバイトやパートでも、以下の条件を満たせば、勤務先の健康保険(協会
けんぽや健康保険組合)に加入できます。

  • 基本的な加入条件:
    1. 週の所定労働時間および月の所定労働日数が、正社員の4分の3以上である
      こと。
  • 2022年10月からの適用拡大(501人以上の企業):
    • 以下の5つの条件をすべて満たす場合は、週の労働時間に関わらず加入が
      必須となりました。

      1. 週の所定労働時間が20時間以上
      2. 月額賃金が8.8万円以上
      3. 2ヶ月を超える雇用の見込みがある
      4. 学生でないこと
      5. 従業員数501人以上の事業所に勤務している(2024年10月からは51人
        以上の事業所へ拡大予定)
  • これらの条件を満たして健康保険に加入していれば、正社員と同様に傷病
    手当金を受給する権利があります。

Q5: 傷病手当金を受給している間の住民税や国民健康保険料の支払いはどうなる?

A5: 傷病手当金は非課税所得ですが、住民税や国民健康保険料(退職後国民
健康保険に加入した場合)は前年の所得に基づいて計算されるため、休業中に
も支払いの義務は生じます

  • 住民税: 前年の所得に対して課税されるため、休業中に収入がなくても、
    支払い通知は届きます。
  • 国民健康保険料: 所得に応じて計算され、退職後に国民健康保険に加入
    した場合は支払いが必要です。
  • 対応策: 収入が減少していることを自治体や健康保険組合に相談する
    ことで、減免制度が利用できる場合や、分割払いなどの相談に応じてくれる
    ことがあります。早めに窓口に相談しましょう。

まとめ:傷病手当金 条件を確認して申請を

傷病手当金は、病気や怪我によって仕事ができなくなり、収入が途絶えた際に、
被保険者とその家族の生活を経済的に支えるための、非常に重要な公的医療保険
制度です。この制度を有効に活用し、安心して療養に専念するためには、受給の
条件を正しく理解し、適切な手続きを踏むことが不可欠です。

傷病手当金を受け取るための主な4つの条件は以下の通りです。

  1. 健康保険に加入していること: 国民健康保険加入者は原則対象外です。
  2. 療養のため労務不能であること: 医師による医学的な判断が求められます。
  3. 連続した3日間(待期期間)は休んでいること: この期間の成立が支給開始
    のトリガーとなります。
  4. 給与の支払いを受けていないこと: 給与が一部支払われている場合は、
    差額が支給されます。

これらの条件をすべて満たしているか確認し、速やかに申請手続きを進めま
しょう。申請には、被保険者ご自身、会社、そして医師の三者による証明が
必要です。特に会社への依頼は早めに行い、もし協力が得られない場合は、
加入している健康保険や労働基準監督署などの専門機関に相談してください。

支給期間は「支給開始日から通算して1年6ヶ月」であり、2022年の改正により
途中で復職した期間はカウントされないため、より柔軟に制度を利用できる
ようになりました。しかし、申請には時効がありますので、長期にわたる休業の
場合は定期的な申請を心がけましょう。

病気や怪我は誰にでも起こりうるものです。いざという時に困らないよう、
この記事を通じて傷病手当金に関する知識を深め、自身の権利をしっかりと
守ってください。あなたの療養が順調に進み、無事に職場復帰できることを
心から願っています。

【免責事項】
本記事で提供する情報は一般的な内容であり、個別の状況に応じた法的、医療的
アドバイスを構成するものではありません。制度の内容は法改正などにより変更
される可能性があります。必ずご自身が加入されている健康保険組合、協会けんぽ、
または専門家(社会保険労務士、弁護士など)にご相談の上、最新かつ正確な
情報に基づいてご判断・ご行動ください。また、医師の診断は個々の病状や状況
により異なるため、必ず主治医の指示に従ってください。

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