傷病手当金は、病気や怪我で会社を休まざるを得なくなった際に、生活の支えとなる重要な公的給付です。しかし、「申請したのに傷病手当金がもらえない」「実は自分は対象外だった」というケースも少なくありません。傷病手当金の支給には、健康保険法に基づいた厳格な条件があり、これを満たさない場合は残念ながら支給対象外となります。本記事では、傷病手当金がもらえない具体的な10のケースと、それぞれの理由、そしてもしもの時の対処法について詳しく解説します。申請前にご自身の状況と照らし合わせ、不安なく手続きを進めるための参考にしてください。
傷病手当金がもらえないケースとは?10の具体例と支給条件を解説
傷病手当金は、健康保険の被保険者が業務外の事由による病気や怪我で仕事ができなくなり、給与の支払いを受けられない場合に、生活保障のために支給される手当です。この制度は、病気や怪我によって収入が途絶えることによる生活への影響を軽減し、療養に専念できる環境を整えることを目的としています。
しかし、全ての病気や怪我、休業が傷病手当金の対象となるわけではありません。特定の状況下では、支給の要件を満たさず、結果として傷病手当金がもらえないケースが発生します。これらの「もらえないケース」を事前に理解しておくことは、不支給による経済的な困難を避ける上で非常に重要です。
本記事では、傷病手当金がもらえない代表的な10のケースを具体的に解説します。ご自身の状況がこれらのケースに該当しないかを確認し、適切な申請を行うための知識を深めましょう。
傷病手当金がもらえない主なケース
傷病手当金は、以下の4つの支給要件を全て満たした場合に支給されます。
- 業務外の事由による病気や怪我で療養していること
- 仕事に就くことができない(労務不能である)こと
- 連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかったこと(待期期間の完成)
- 休業した期間について給与の支払いがないこと
これらの要件のいずれかを満たさない場合や、他の公的給付との関係で調整・不支給となる場合があります。以下に、傷病手当金がもらえない具体的な10のケースを詳しく見ていきましょう。
労災認定を受けている場合
傷病手当金がもらえないケースとして、まず挙げられるのが、労災保険の給付を受けている場合です。
傷病手当金と労災の併給はできない
傷病手当金は「業務外の事由」による病気や怪我を対象とするのに対し、労災保険(労働災害補償保険)は「業務上の事由」または「通勤途上の事由」による負傷や疾病を対象とします。このため、同じ病気や怪我に対して、傷病手当金と労災保険の給付を同時に受けることはできません。
もし労災保険から休業補償給付を受けている場合、傷病手当金は支給されません。これは、二重に公的給付を受けることを防ぐための調整規定です。ただし、労災保険の給付額が傷病手当金より少ない場合は、その差額が傷病手当金として支給されることがあります。
【傷病手当金と労災の適用範囲の比較】
| 項目 | 傷病手当金 | 労災保険 |
|---|---|---|
| 根拠法 | 健康保険法 | 労働者災害補償保険法 |
| 対象事由 | 業務外の病気や怪我 | 業務上・通勤途上の病気や怪我 |
| 支給元 | 健康保険組合・協会けんぽ | 労働基準監督署 |
| 目的 | 生活保障 | 労働災害の補償 |
| 併給 | 原則不可(差額調整あり) | 原則不可 |
通勤災害で傷病手当金はもらえない
通勤災害は、労災保険の対象となるため、通勤途中に発生した事故による怪我で休業した場合、傷病手当金は支給されません。これは、上記の「傷病手当金と労災の併給はできない」という原則に基づきます。通勤災害と認定された場合は、労災保険からの休業補償給付が優先されるため、傷病手当金の申請は不要となります。
療養のための休業ではない場合
傷病手当金の支給要件の一つに「療養のための休業」であることが挙げられます。単に会社を休んでいるだけでは支給対象にはなりません。
業務外の事由ではないと判断されるケース
「業務外の事由」による病気や怪我であることが、傷病手当金支給の絶対条件です。もし病気や怪我が業務に起因するもの、または通勤中に発生したものと判断された場合、それは労災保険の管轄となり、傷病手当金の対象外となります。
例えば、長時間の残業による過労が原因で精神疾患を発症した場合や、職場で発生した事故で負傷した場合は、業務起因性があるとして労災保険の対象となる可能性があります。この場合、労災申請が優先され、傷病手当金は支給されません。
傷病手当金は健康保険から支給される
傷病手当金は、被保険者が加入している健康保険組合や協会けんぽから支給されます。これは、健康保険が主に業務外の疾病や負傷に対する医療費や生活保障を目的とする制度だからです。労災保険は労働基準法に基づくものであり、事業主の責任として労働災害に対する補償を行う制度であるため、その支給元や目的が根本的に異なります。この制度の違いを理解しておくことが重要です。
仕事に就くことができる場合
傷病手当金の最も重要な支給要件の一つが「労務不能」であることです。医師によって「仕事ができない状態」と判断されなければ、傷病手当金は支給されません。
労務不能と認められないケース
「労務不能」とは、単に体がだるい、気分が乗らないといった主観的な状態を指すものではありません。傷病のために、今まで従事していた業務はもちろん、その他の軽易な業務も含め、一切の仕事に就くことができない状態を指します。
例えば、以下のような場合は労務不能と認められにくい傾向があります。
- 症状が軽微で、通常の日常生活を送れる場合
- 短時間勤務や在宅勤務など、何らかの形で業務に従事できる状態にある場合
- 医師が「就労可能」と判断した場合
自己判断で「仕事ができない」と休業しても、医師の診断書で労務不能が認められなければ、傷病手当金はもらえません。
傷病手当金の「労務不能」の定義
傷病手当金における「労務不能」の定義は、その業務に従事していた労働者が、通常の業務、またはその他簡易な業務を含む一切の業務に就くことができない状態であることです。これは、医師の医学的な判断が最も重要視されます。
傷病手当金の申請書には、医師が「労務不能である」と証明する欄があります。この証明がなければ、原則として傷病手当金は支給されません。もし医師が「完全に労務不能ではないが、一部制限がある」と判断した場合、状況によっては支給対象とならない可能性もあります。労務不能の判断は非常に専門的であるため、必ず主治医とよく相談し、正確な診断書を作成してもらう必要があります。
連続3日間を含み4日以上休業していない場合
傷病手当金には「待期期間」というものがあり、これを満たさないと支給されません。
3日間の待期期間とは
傷病手当金が支給されるためには、業務外の病気や怪我による休業が「連続する3日間」続いている必要があります。この連続した3日間を「待期期間」と呼びます。待期期間には、土日祝日や有給休暇、欠勤日なども含めることができますが、とにかく連続して3日間仕事を休んだことが重要です。
【待期期間の例】
- 月曜日:休業(1日目)
- 火曜日:休業(2日目)
- 水曜日:休業(3日目:待期期間完成)
- 木曜日:休業(4日目:支給開始日)
この例の場合、木曜日からが傷病手当金の支給対象となります。
傷病手当金は連続3日以上が条件
待期期間は、連続して3日間休業することによって完成します。たとえ合計で3日以上休業していたとしても、その間に1日でも出勤日がある場合は、待期期間はリセットされ、再度連続3日間の休業が必要となります。
例えば、月曜、火曜と休んで水曜日に出勤し、木曜から再び休業した場合、水曜日の出勤によって待期期間が中断されます。この場合、木曜から改めて連続3日間の休業が求められることになります。この連続性の条件は、傷病手当金申請において見落とされがちですが、非常に重要なポイントです。
休業期間中に給与が支払われている場合
傷病手当金は、休業によって「給与の支払いがない」場合に支給される生活保障の制度です。そのため、休業期間中に給与が支払われている場合は、支給額が調整されたり、不支給となったりします。
一部給与でも支給されない可能性
休業期間中に会社から給与が支払われた場合、傷病手当金の額と給与の額を比較し、調整が行われます。
- 給与の額が傷病手当金の額よりも多い場合:傷病手当金は支給されません。
- 給与の額が傷病手当金の額よりも少ない場合:傷病手当金からその給与額が差し引かれ、差額が支給されます。
「給与」には、基本給だけでなく、通勤手当や家族手当、皆勤手当など、労働の対価として支給されるあらゆる賃金が含まれます。したがって、たとえ一部の給与であっても支給された場合は、それが傷病手当金の支給額に影響を与える可能性があります。
傷病手当金と有給休暇
有給休暇を取得して休業している期間は、会社から通常の給与が支払われます。そのため、有給休暇を取得している期間は、傷病手当金は支給されません。
これは、傷病手当金が「給与の支払いがないこと」を条件としているためです。もし有給休暇を消化しきってから病気や怪我で休業を続ける場合、その時点から傷病手当金の支給対象となる可能性があります。ただし、有給休暇と傷病手当金は選択することができます。経済的な状況や残りの有給休暇日数などを考慮し、どちらの制度を利用するかを検討しましょう。一般的には、傷病手当金の方が支給額が低くなる傾向があるため、有給休暇が残っている場合はそちらを優先することも一案です。
申請期間が過ぎている場合
傷病手当金には申請期限が設けられています。期限を過ぎてしまうと、原則として支給を受けることができません。
傷病手当金の申請期限
傷病手当金の申請期限は、休業した日ごとに、その翌日から「2年間」です。例えば、2023年4月1日から休業を開始した場合、2023年4月1日分の傷病手当金の申請期限は2025年3月31日となります。これは「休業した日ごと」にカウントされるため、支給開始から1年6ヶ月を超えても、その休業日の翌日から2年以内であれば申請が可能です。ただし、療養のために労務不能となった期間が長く続く場合でも、支給期間は支給開始日から最長で1年6ヶ月までと定められています。
過去に遡って申請できるか
申請期限内であれば、過去に遡って申請することが可能です。例えば、病気で3ヶ月間休業していたが、その間は申請をしていなかったという場合でも、休業した日から2年以内であればまとめて申請することができます。しかし、診断書の取得や会社からの証明など、過去の状況を証明するための手続きが必要となるため、できるだけ早めに申請することをお勧めします。時間が経つと、医師の記憶が曖昧になったり、必要な書類を揃えるのが困難になったりする可能性もあるため注意が必要です。
過去に傷病手当金を受給したことがある場合
同じ病気や怪我で過去に傷病手当金を受給した経験がある場合、改めて申請する際に注意すべき点があります。
支給開始日から1年6ヶ月経過
傷病手当金の支給期間は、同一の病気や怪我に対して、支給開始日から最長で「1年6ヶ月」です。この1年6ヶ月という期間は、途中で復職したり、給与が支払われたりして傷病手当金の支給が停止された期間も含まれます。例えば、支給開始日から1年6ヶ月が経過した場合、たとえその時点でまだ労務不能であっても、傷病手当金はそれ以上支給されません。これは、傷病手当金が長期にわたる療養期間中の生活を一時的に保障するための制度であり、無期限に続くものではないためです。
同じ病気・怪我での受給期間
原則として、同じ病気や怪我、またはそれに関連する病気(例えば、うつ病から双極性障害に病名が変わった場合など)については、支給開始日から1年6ヶ月という支給期間のカウントは継続されます。「同じ病気」かどうかの判断は、医師の診断や健康保険組合の判断によります。異なる病気であれば、新たに待期期間を設けて傷病手当金を申請することができますが、関連性が高いと判断された場合は、前の支給期間に合算される可能性があります。
扶養に入っている場合(配偶者や家族)
扶養に入っている配偶者や家族は、原則として傷病手当金の対象外となります。
被扶養者は傷病手当金を受け取れない
傷病手当金は、健康保険の「被保険者」が支給対象です。被扶養者は、被保険者の保険証を利用して医療機関を受診することはできますが、被保険者ではありません。そのため、被扶養者自身が病気や怪我で休業しても、傷病手当金を受け取ることはできません。例えば、夫が会社員で健康保険の被保険者であり、妻が夫の扶養に入っている専業主婦の場合、妻が病気で家事を行えない状態になっても、傷病手当金は支給されません。
家族手当との違い
会社によっては、従業員の扶養家族に対して「家族手当」などの手当を支給している場合があります。これは会社の福利厚生の一環であり、傷病手当金とは全く異なる制度です。家族手当は、扶養家族の有無に応じて支給されるもので、扶養家族の病気や怪我による休業とは直接関係ありません。被扶養者が病気や怪我で働くことができない場合、傷病手当金の代わりに受けられる公的給付は基本的にありません。そのため、世帯全体の収入計画を立てる上で、この点は十分に考慮しておく必要があります。
雇用保険の失業等給付を受けている場合
傷病手当金と雇用保険の失業等給付(いわゆる失業保険)は、同時には受け取ることができません。
失業保険と傷病手当金の併給
失業保険は、働く意思と能力があるにもかかわらず仕事に就けない場合に支給される給付です。一方で、傷病手当金は、病気や怪我で「仕事に就くことができない(労務不能)」場合に支給されます。この二つの制度は、「働く意思と能力」という点で根本的に矛盾するため、原則として併給はできません。
- 傷病手当金受給中:労務不能と認められているため、失業保険は受け取れません。
- 失業保険受給中:働く意思と能力があるとされているため、傷病手当金は受け取れません。
ただし、傷病手当金の支給期間が終了した後も病気や怪我が継続し、働くことが難しい状況が続く場合は、失業保険の受給期間延長を申請できる場合があります。この場合、失業保険の受給期間を延長し、体調が回復してから改めて求職活動を行うことができます。体調不良で求職活動ができない期間は、ハローワークに申し出ることで失業保険の受給期間が延長される可能性があります。
その他、支給要件を満たさない場合
上記以外にも、傷病手当金がもらえないケースが存在します。
産前産後休業期間中の場合
女性が妊娠・出産のために会社を休む場合、健康保険からは「出産手当金」が支給されます。出産手当金も傷病手当金と同様に健康保険からの給付であり、目的が出産のための休業であるため、産前産後休業期間中は原則として傷病手当金は支給されません。
ただし、もし妊娠中に病気や怪我で労務不能となり、出産手当金の額よりも傷病手当金の額が多い場合は、その差額が傷病手当金として支給されることがあります。
健康保険の被保険者でない場合
傷病手当金は、健康保険の被保険者のみが対象となる給付です。そのため、以下のような場合は傷病手当金を受け取ることができません。
- 国民健康保険の加入者:自営業者やフリーランスの方など、国民健康保険に加入している場合は、傷病手当金の制度はありません。国民健康保険には、傷病手当金に代わる公的な制度はありませんが、各自治体で独自の支援制度がある場合や、民間の所得補償保険などを利用することが考えられます。
- 退職後に健康保険の資格を喪失した場合:会社を退職すると、原則として健康保険の被保険者資格を喪失します。退職後に傷病手当金を受け取るためには、以下の条件を満たす必要があります。
- 退職日までに継続して1年以上の被保険者期間があること。
- 退職日時点で傷病手当金の支給を受けているか、受けることができる状態であること(待期期間を完成していること)。
- 退職後も引き続き労務不能の状態であること。
この条件を満たせば、退職後も健康保険から傷病手当金が継続して支給される場合があります(「任意継続被保険者」や「特例退職被保険者」として健康保険に加入している場合を除く)。
これらのケースに該当する場合は、傷病手当金以外の公的支援や、民間の保険制度などを検討する必要があります。
傷病手当金がもらえない場合の対処法
もし傷病手当金の申請が却下されたり、不支給になる可能性が出てきたりした場合でも、諦める必要はありません。いくつかの対処法を試すことで、支給を受けられる可能性が残されています。
支給条件を再確認する
傷病手当金の申請をする前に、まずご自身の状況が支給条件をすべて満たしているか、再度確認することが重要です。
傷病手当金の4つの条件
傷病手当金の支給には、以下の4つの条件をすべて満たす必要があります。
- 業務外の病気や怪我による療養であること:業務上や通勤途中の事由でなく、私的な病気や怪我であることが前提です。
- 仕事に就くことができない(労務不能である)こと:医師の診断に基づき、今まで従事していた業務やその他簡易な業務も含めて、一切の仕事に従事できない状態であること。
- 連続する3日間を含み4日以上休業したこと:待期期間(連続する3日間)が完成し、それ以降の休業日であること。
- 休業した期間について給与の支払いがないこと:会社から給与(通勤手当や家族手当なども含む)が全く支払われていないか、支払われていても傷病手当金の額より少ないこと。
これらの条件のうち、一つでも満たさない場合は傷病手当金は支給されません。特に「労務不能」の判断や「待期期間」の完成は、申請書記載の不備や認識の違いから不支給となるケースが多いため、細心の注意が必要です。
傷病手当金 支給要件チェックリスト
以下のチェックリストを使って、ご自身の状況を確認してみましょう。
| 項目 | はい | いいえ | 備考 |
|---|---|---|---|
| 業務外の病気や怪我ですか? | □ | □ | 業務上や通勤途上であれば労災保険の対象です |
| 医師から労務不能と診断されていますか? | □ | □ | 自己判断ではなく、医師の医学的見地が重要です |
| 連続して3日間休業しましたか? | □ | □ | 欠勤、有給、土日祝日を含め、連続していればOKです |
| その後も4日目以降、休業を続けていますか? | □ | □ | 待期期間完成後の休業日が支給対象です |
| 休業期間中に会社から給与はありませんか? | □ | □ | 給与がある場合は、支給額が調整されるか、不支給になります |
| 現在、健康保険の被保険者ですか? | □ | □ | 国民健康保険加入者や資格喪失者は原則対象外です |
| 傷病手当金の申請期限内ですか? | □ | □ | 休業日の翌日から2年以内です |
| 労災保険の給付を受けていませんか? | □ | □ | 同一事由での併給は原則できません |
| 失業保険の給付を受けていませんか? | □ | □ | 同時受給はできません |
| 産前産後休業期間中ではありませんか? | □ | □ | 出産手当金が優先されます(差額調整あり) |
| 自費診療(美容整形など)や病気と見なされない症状での休業 | □ | □ | 健康保険の給付対象外となるため、傷病手当金も対象外です |
「いいえ」が一つでもある場合は、傷病手当金がもらえない可能性が高いです。
医師の診断書を再提出・再確認する
傷病手当金の申請において、医師の診断書(意見書)は非常に重要です。不支給の原因が診断書の内容にある可能性も考えられます。
労務不能の証明方法
傷病手当金支給申請書の医師記入欄には、「労務不能と認めた期間」を記載する箇所があります。この期間が正確に記載されているか、またご自身の休業期間と一致しているかを確認しましょう。
- 労務不能の期間が明確でない:医師の診断書で「労務不能」の期間が曖昧であったり、部分的であったりする場合、健康保険組合が支給を認めないことがあります。
- 病状の記載が不十分:病状や療養内容が十分に記載されていないと、労務不能であることの医学的根拠が乏しいと判断される場合があります。
もし医師の診断書の内容に疑問がある、あるいは不支給の理由が診断書の記載内容にあると健康保険組合から指摘された場合は、再度主治医に相談し、診断書の内容をより明確に記載してもらうよう依頼することが考えられます。
傷病手当金 医師の意見書
医師の意見書は、単に病名と期間を記載するだけでなく、具体的にどのような症状があり、それがどのように業務に支障をきたすのか、医学的な見地から詳細に記述されている方が、支給可否の判断に繋がりやすくなります。
特に精神疾患の場合、客観的な症状を把握しにくいため、医師が患者の訴えや日常の状態を詳しく記載することが求められます。主治医とよくコミュニケーションを取り、自身の症状や生活への影響を正確に伝えることが重要です。
加入している健康保険組合に相談する
傷病手当金に関する疑問や不支給の理由については、ご自身が加入している健康保険組合や協会けんぽの窓口に直接相談するのが最も確実です。
傷病手当金 申請相談窓口
健康保険組合や協会けんぽには、傷病手当金の申請に関する専門の相談窓口があります。ここに問い合わせることで、以下のような情報を得ることができます。
- 不支給になった具体的な理由:なぜ支給されなかったのか、どの要件を満たしていないのかを明確に教えてもらえます。
- 再申請の可能性と必要な手続き:不備を修正して再申請できるか、その際に必要な書類や手順を教えてもらえます。
- 制度に関する詳細な説明:複雑な制度内容について、個別の状況に合わせて説明してくれます。
電話だけでなく、オンラインでの相談や、地域によっては窓口での対面相談も可能な場合があります。具体的な状況を説明できるよう、休業期間や病状、会社の対応などの情報をまとめておくとスムーズです。
会社が傷病手当金を嫌がる場合の対応
会社によっては、傷病手当金の手続きに非協力的であったり、申請を嫌がるケースも稀にあります。これは、会社側が申請書類への記載や手続きに手間がかかる、あるいは健康保険料率に影響すると誤解している、といった理由が考えられます。
しかし、傷病手当金は労働者の権利であり、健康保険法に基づく制度です。会社には申請書の事業主証明欄への記載義務があります。もし会社が不当に協力を拒む場合は、以下の対応を検討しましょう。
- 労働基準監督署への相談:会社の対応が明らかに不当である場合、労働基準監督署に相談することができます。
- 健康保険組合への相談:健康保険組合に、会社が申請に協力してくれない旨を相談するのも有効です。組合側から会社へ指導が入ることもあります。
- 社会保険労務士への相談:専門家である社会保険労務士に相談し、会社との間に入ってもらうことも一つの方法です。
会社との良好な関係を保ちつつ進めるのが理想ですが、権利が侵害されるような状況であれば、適切な機関に相談することが大切です。
専門家(社会保険労務士など)に相談する
傷病手当金の申請は複雑で、特に不支給になった場合の対応は専門的な知識を要することがあります。
傷病手当金 申請サポート
社会保険労務士は、労働・社会保険に関する専門家です。傷病手当金の制度に精通しており、申請書の作成支援、添付書類の確認、健康保険組合とのやり取りなど、申請手続き全般をサポートしてくれます。
- 複雑なケースの判断:複数回の休業、病名の変更、退職後の申請など、複雑なケースでの適切な手続きや判断についてアドバイスをもらえます。
- 不支給になった場合の対応:不支給の理由を分析し、再申請が可能かどうか、どのような資料を追加すべきかなど、具体的な解決策を提案してくれます。
- 会社との調整:必要であれば、会社との間に入り、スムーズな手続きを支援してくれることもあります。
費用はかかりますが、確実に傷病手当金を受け取るため、あるいは不支給の状態を打開するためには、専門家のサポートが非常に有効な手段となるでしょう。初回無料相談を実施している社会保険労務士事務所も多いので、まずは相談してみることをお勧めします。
傷病手当金がもらえないケースに関するよくある質問(FAQ)
傷病手当金に関する疑問は多岐にわたります。ここでは、特によくある質問とその回答をご紹介します。
Q. 傷病手当金がもらえない理由は「労務不能」以外に何がありますか?
A. 傷病手当金がもらえない理由は、「労務不能」以外にも複数あります。主な理由としては以下の点が挙げられます。
- 業務上の病気や怪我である場合:労災保険の対象となり、傷病手当金とは併給できません。
- 待期期間(連続3日間)が完成していない場合:連続した休業が3日間に満たない、または途中で中断された場合。
- 休業期間中に給与が支払われている場合:給与額が傷病手当金より多い場合や、有給休暇を取得している場合。
- 申請期限を過ぎている場合:休業した日ごとに、その翌日から2年が経過している場合。
- 支給期間(最長1年6ヶ月)が終了している場合:同一の傷病での支給開始日から1年6ヶ月が経過している場合。
- 雇用保険の失業等給付を受給している場合:失業給付と傷病手当金は同時受給できません。
- 健康保険の被保険者でない場合:国民健康保険の加入者や、被扶養者は対象外です。
- 産前産後休業期間中の場合:出産手当金が優先されるため、原則として支給されません(差額調整あり)。
- 自費診療(美容整形など)や病気と見なされない症状での休業:健康保険の給付対象外となるため、傷病手当金も対象外です。
これらの条件に一つでも該当する場合、傷病手当金は支給されません。
Q. 傷病手当金と雇用保険の失業給付はどちらか一方しか受け取れませんか?
A. はい、原則としてどちらか一方しか受け取れません。傷病手当金は「労務不能」の状態にある場合に支給されるのに対し、雇用保険の失業等給付(失業保険)は「働く意思と能力がある」場合に支給されるものです。この2つの制度は、その根拠となる考え方が異なるため、同時に受給することはできません。
ただし、傷病手当金の支給期間が終了した後も病気や怪我で働くことが難しい状況が続く場合は、失業保険の「受給期間延長」を申請できる場合があります。これは、本来の失業保険の受給期間を延長し、体調が回復してから改めて求職活動ができるようにする制度です。ハローワークに相談し、医師の診断書などを提出することで申請可能です。
Q. 傷病手当金をもらえない場合、代わりにどのような給付金がありますか?
A. 傷病手当金がもらえない場合でも、状況に応じて他の公的給付金や民間の保険で対応できる可能性があります。
| 状況 | 代替となる可能性のある給付金・制度 | 備考 |
|---|---|---|
| 業務上・通勤途上の傷病 | 労災保険(休業補償給付など) | 労働基準監督署に申請。 |
| 失業中だが病気で求職活動できない | 雇用保険の失業等給付(受給期間延長) | ハローワークで申請。延長期間には上限があります。 |
| 出産による休業 | 出産手当金 | 健康保険から支給。傷病手当金と併給不可(差額調整あり)。 |
| 障害状態にある場合 | 障害年金(障害基礎年金、障害厚生年金) | 病気や怪我により生活や仕事に著しい支障がある場合に支給。条件が複雑です。 |
| 生活困窮している場合 | 生活保護 | 最終的なセーフティネット。資産や能力などを総合的に判断されます。 |
| 国民健康保険加入者(自営業など) | 所得補償保険(民間保険)、または各自治体の独自の支援制度 | 国民健康保険には傷病手当金の制度がありません。 |
| 企業独自の制度 | 傷病見舞金、休職期間中の給与保障、慶弔金など | 会社の就業規則や福利厚生制度を確認。 |
| 要介護状態にある場合 | 介護保険サービス、介護休業給付(雇用保険) | 要介護認定を受けた場合や家族の介護のために休業した場合。 |
ご自身の状況に合わせて、利用できる制度がないか、各機関(労働基準監督署、ハローワーク、市区町村役場、健康保険組合など)に相談してみましょう。
Q. 傷病手当金は、いくらまでいくらもらえるか計算方法を教えてください。
A. 傷病手当金の支給額は、原則として以下の計算式で算出されます。
支給開始日以前の継続した12ヶ月間の標準報酬月額の平均額 ÷ 30日 × 2/3
- 標準報酬月額:健康保険料や厚生年金保険料を計算する際の基準となる月の給与額です。毎年見直されます。
- 継続した12ヶ月間:支給開始日より前の、被保険者期間が継続していた期間です。もし被保険者期間が12ヶ月に満たない場合は、以下のいずれか低い方の額が標準報酬月額の平均として用いられます。
- 支給開始日以前の被保険者期間の標準報酬月額の平均額
- 加入している健康保険の全被保険者の標準報酬月額の平均額
- 30日:月の平均日数を指します。
- 2/3:標準報酬月額の約3分の2が支給されます。
【具体的な計算例】
例えば、支給開始日以前12ヶ月間の標準報酬月額の平均が30万円だった場合:
300,000円 ÷ 30日 × 2/3 = 6,666円(1日あたりの支給額)
この場合、1日あたり約6,666円が支給されます。支給期間は、支給開始日から最長1年6ヶ月です。
ただし、休業期間中に会社から給与が支払われた場合は、その給与額と傷病手当金の額を比較し、支給額が調整されることがあります。支給される給与額が傷病手当金の1日あたりの額を下回る場合に限り、その差額が支給されます。もし、給与額が傷病手当金の額以上であれば、傷病手当金は支給されません。
正確な支給額や計算方法については、ご自身の加入している健康保険組合や協会けんぽに確認するのが最も確実です。
—
免責事項: 本記事は傷病手当金に関する一般的な情報提供を目的としており、特定のケースに対する法的助言や専門的な見解を示すものではありません。個別の状況については、必ず関係機関(健康保険組合、社会保険労務士、弁護士など)にご相談ください。制度内容や法律は変更される可能性がありますので、常に最新の情報をご確認ください。
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