自己都合で会社を辞めた場合でも、失業保険(雇用保険の基本手当)は受給できます。しかし、会社都合退職とは異なり、受給開始までに一定の期間を要したり、申請手続きにいくつかの注意点が存在します。
このガイドでは、「失業保険 自己都合」で悩むあなたが、安心して転職活動を進められるよう、受給資格から申請の流れ、給付制限期間、金額の計算方法、そして2025年4月の法改正まで、知っておくべき情報を網羅的に解説します。この記事を読み終える頃には、失業保険に関する疑問が解消され、次のキャリアへの一歩を踏み出す自信が持てるようになるでしょう。
失業保険を自己都合退職でもらうための全知識
自己都合退職は、自身の意思で会社を辞めることを指し、「失業保険をもらえないのでは?」と不安に感じる方も少なくありません。しかし、適切な条件を満たし、正しい手続きを行えば、自己都合退職であっても失業保険(雇用保険の基本手当)を受給することは可能です。
失業保険は、雇用保険に加入していた労働者が、離職後に再就職するまでの生活を安定させ、求職活動を支援するための大切な制度です。自己都合退職の場合、会社都合退職と比べて受給開始までの期間が長くなるという特徴がありますが、その分、再就職に向けた準備期間を計画的に使うことができます。
この記事では、自己都合退職で失業保険をもらうための具体的な条件、申請から受給までのステップ、支給される金額の計算方法、そして知っておきたい2025年4月の法改正による変更点まで、詳細に解説していきます。あなたの転職活動がスムーズに進むよう、必要な知識をぜひ身につけてください。
自己都合退職で失業保険(基本手当)をもらう条件
自己都合退職で失業保険(雇用保険の基本手当)を受給するためには、会社都合退職とは異なるいくつかの条件を満たす必要があります。ここでは、失業保険の受給資格と、自己都合退職特有の給付制限期間について詳しく見ていきましょう。
受給資格の確認:雇用保険の加入期間
失業保険の基本手当を受け取るためには、まず「失業状態であること」と「雇用保険の加入期間」という2つの基本的な要件を満たす必要があります。
- 失業状態であること:
- 単に職を失っているだけでなく、「再就職する意思と能力があり、積極的に求職活動を行っているにもかかわらず、職業に就くことができない状態」であるとハローワークに認められる必要があります。病気やケガで働けない、妊娠・出産・育児で働けないなどの場合は、原則として失業状態とはみなされません。
- 雇用保険の加入期間(被保険者期間):
- 自己都合退職の場合、原則として、離職の日以前2年間で、雇用保険の被保険者期間が通算して12ヶ月以上あることが必要です。
- ここでいう「1ヶ月」とは、賃金の支払い基礎となった日数が11日以上ある月、または労働時間が80時間以上ある月を指します。例えば、パートやアルバイトで勤務していた場合でも、これらの基準を満たしていれば被保険者期間としてカウントされます。
例:
あなたが2024年12月31日に自己都合で退職した場合、2023年1月1日から2024年12月31日までの2年間で、雇用保険に加入していた期間が合計12ヶ月以上あれば、この受給資格を満たしていることになります。
例外:特定理由離職者・特定受給資格者
自己都合退職であっても、以下のような「正当な理由のある自己都合退職」と認められる場合、特定理由離職者として扱われ、会社都合退職と同様に給付制限期間が適用されないことがあります。
- 病気やケガにより働くことが困難になった場合
- 妊娠、出産、育児により離職し、その後再就職を希望する場合
- 親の介護や扶養のために離職せざるを得なかった場合
- 配偶者の転勤によりやむを得ず退職する場合
- 事業所の移転により通勤が困難になった場合
- ハラスメント(セクハラ、パワハラなど)やいじめにより退職した場合
- 賃金の大幅な減額や残業代の未払いなど、労働条件が著しく低下した場合
これらのケースに該当する可能性がある場合は、離職前にハローワークに相談し、必要な書類や手続きについて確認することが重要です。ハローワークの判断によって、給付制限が免除されることで、より早く失業保険を受け取れる可能性があります。
自己都合退職の場合の給付制限期間
自己都合退職者が失業保険を受給する際に最も注意すべき点が、「給付制限期間」です。この期間は、基本手当の支給が一時的にストップされる期間を指します。
失業保険の申請手続きを完了し、受給資格が決定された後、以下の2つの期間が設定されます。
- 待期期間(7日間):
- これは自己都合退職・会社都合退職に関わらず、全ての離職者に適用される期間です。ハローワークに離職票を提出し、求職の申し込みを行った日(受給資格決定日)から数えて7日間は、基本手当が支給されません。この期間は、本当に失業状態であるかを確認するための期間とされています。待期期間中も、積極的に求職活動を行うことは可能です。
- 給付制限期間(原則2ヶ月):
- 7日間の待期期間が終了した後、自己都合退職の場合には原則として2ヶ月間の給付制限期間が設けられます。これは、自身の意思で退職したため、一定期間の猶予を設けることで、再就職への意欲を確認し、安易な離職を防ぐ目的があります。
- この2ヶ月間は、たとえ失業認定を受けても基本手当は支給されません。実際に基本手当の支給が始まるのは、この給付制限期間が明けてから、最初の失業認定日以降となります。
- なお、過去5年以内に2回以上の自己都合退職があり、給付制限を受けたことがある場合でも、2020年10月1日以降の離職であれば、原則として給付制限期間は2ヶ月に統一されています。
具体例:
あなたが2024年12月31日に退職し、2025年1月10日にハローワークで受給資格が決定されたとします。
- 待期期間(7日間): 2025年1月10日~1月16日
- 給付制限期間(2ヶ月): 2025年1月17日~3月16日
この場合、実際に基本手当の支給が始まるのは、2025年3月17日以降の失業認定日からとなります。
2025年4月からの給付制限期間短縮について
自己都合退職者にとって重要な法改正が予定されており、2025年4月1日以降に離職する自己都合退職者を対象に、給付制限期間が原則1ヶ月に短縮される見込みです。
これは、政府がリスキリング(学び直し)や円滑な労働移動を推進する政策の一環として行われるものです。転職へのハードルを下げ、求職者がより早く生活を安定させながら転職活動に専念できるよう支援することを目的としています。
この法改正が実施されれば、失業保険の受給開始までの期間が大幅に短縮され、自己都合退職後の経済的な不安を軽減し、より前向きに転職活動に取り組むことが可能になります。
| 項目 | 現在(2025年3月31日までの離職) | 2025年4月1日以降の離職(予定) |
|---|---|---|
| 給付制限期間 | 原則2ヶ月 | 原則1ヶ月 |
| 対象者 | 自己都合退職者(特定理由離職者を除く) | 自己都合退職者(特定理由離職者を除く) |
| 背景・目的 | 再就職への意欲確認 | 労働移動の円滑化、リスキリング促進 |
| 受給開始目安 | 受給資格決定日+7日+2ヶ月後 | 受給資格決定日+7日+1ヶ月後 |
(※)上記は現時点での情報であり、今後の国会での審議状況や詳細な制度設計により変更となる可能性もあります。最新情報は厚生労働省やハローワークの公式発表を必ずご確認ください。特に離職日によって適用される制度が変わるため、ご自身の退職時期と照らし合わせて確認することが重要です。
失業保険の申請から受給までの流れ
自己都合退職で失業保険(基本手当)を受給するまでのプロセスは、いくつかのステップに分かれています。それぞれの段階で必要な手続きと、自己都合退職ならではの注意点を理解しておくことで、スムーズに受給を進めることができます。
ステップ1:離職票の受け取りとハローワークへの申請
失業保険の申請は、退職後の最初の重要なステップです。
- 離職票の受け取り
- 会社を退職すると、通常は2週間から1ヶ月程度で、会社から「雇用保険被保険者離職票-1」と「雇用保険被保険者離職票-2」が自宅に郵送されます。
- この離職票は、失業保険の申請に不可欠な書類です。会社によっては発行が遅れるケースもあるため、退職後しばらく経っても届かない場合は、会社の人事・総務部に問い合わせましょう。特に、離職票-2には、退職理由や賃金情報が記載されており、これがハローワークでの受給資格決定の際に重要となります。退職理由が「自己都合」となっていることを確認してください。もし会社都合に該当する理由(特定理由離職者)がある場合は、会社と話し合うか、ハローワークで相談してみましょう。
- ハローワークへの申請
- 離職票が届いたら、速やかに住所地を管轄するハローワークへ行き、求職の申し込みと失業保険の受給申請を行います。
- 申請期限は、離職日の翌日から1年以内です。この期間を過ぎると、原則として失業保険を受給する権利が消滅してしまうため、注意が必要です。ただし、病気や妊娠・出産などで30日以上働けない期間があった場合は、その期間を最大3年間加算することができます(要申請)。
ハローワークへの持参物リスト
| 書類名 | 詳細 | 備考 |
|---|---|---|
| 雇用保険被保険者離職票-1 | 個人情報や離職年月日が記載されたもの | 会社から郵送される |
| 雇用保険被保険者離職票-2 | 離職理由、賃金情報などが記載されたもの | 会社から郵送される |
| マイナンバーカード | またはマイナンバー通知カード+運転免許証など、身元確認書類 | マイナンバー確認と身元確認のために必要 |
| 本人確認書類 | 運転免許証、パスポート、住民基本台帳カードなど(顔写真付きなら1点、なしなら2点) | マイナンバーカードがない場合 |
| 印鑑 | シャチハタ以外のもの(認印で可) | 書類作成時に使用 |
| 写真2枚 | 最近3ヶ月以内に撮影した顔写真(縦3.0cm×横2.5cm) | ハローワークカード作成などに使用 |
| 本人名義の預金通帳またはキャッシュカード | 失業保険の振込先として指定する金融機関の口座情報がわかるもの | ゆうちょ銀行、ネット銀行も可能(一部例外あり) |
ハローワークでは、これらの書類を提出後、担当者との面談を通じて求職の申し込みを行い、失業保険の受給資格の有無が確認されます。この日を「受給資格決定日」と呼び、失業保険の受給期間の起算日となります。
ステップ2:7日間の待期期間
ハローワークで求職の申し込みを行い、失業保険の受給資格が決定されると、そこから7日間の「待期期間」が始まります。
- 待期期間とは: 離職理由に関わらず、すべての失業者が基本手当を受給する前に必ず設けられる期間です。この期間は、本当に失業状態であるかを確認するための期間とされています。
- 期間中の過ごし方: この7日間は、基本手当が支給されません。しかし、求職活動を始めることはできますし、次のステップである給付制限期間中の求職活動に役立つ情報を集める良い機会でもあります。ハローワークで開催される説明会に参加したり、求人情報を閲覧したり、自己分析を進めたりするなど、有効に活用しましょう。
ステップ3:給付制限期間(自己都合の場合)
7日間の待期期間が終了した後、自己都合退職者には、原則として2ヶ月間の「給付制限期間」が設けられます(2025年4月1日以降の離職者は原則1ヶ月)。この期間は、基本手当が支給されない期間となります。
- 給付制限期間の意味: 自己の都合で退職を選択したため、その期間中に求職活動を行い、再就職への意欲と努力を促すことを目的としています。経済的な制約が生じる期間ではありますが、焦らず計画的に次のキャリアを考える時間として捉えることが重要です。
期間内にしておくべきこと
給付制限期間は、失業保険が支給されない期間ではありますが、決して何もできない期間ではありません。むしろ、この期間をいかに有効活用するかが、早期の再就職成功の鍵を握ります。
- 積極的な求職活動の開始:
- 給付制限期間中から積極的に求職活動を行うことで、支給開始と同時に選考が進んでいる状態を目指せます。
- ハローワークでの職業相談、求人検索、セミナー受講、職業紹介会社(転職エージェント)への登録、企業の採用情報サイトの閲覧、履歴書・職務経歴書の作成、面接対策など、できることは多岐にわたります。
- 失業認定に必要な求職活動実績を積むためにも、この期間から活動を始めることが重要です。
- ハローワークの各種セミナーや講習会への参加:
- ハローワークでは、履歴書・職務経歴書の書き方講座、面接対策セミナー、PCスキルアップ講座など、再就職に役立つ様々なセミナーや講習会を無料で提供しています。これらに参加することは、求職活動実績としても認められます。
- 職業訓練の検討:
- 専門的なスキルを身につけたいと考えている場合は、公共職業訓練(ハロートレーニング)の受講を検討するのも良いでしょう。給付制限期間中に申し込むことで、訓練開始時期と給付制限明けを合わせやすくなることもあります。訓練期間中は、条件を満たせば基本手当の支給が延長されたり、訓練手当が支給されたりする場合があります。
- 自己分析とキャリアプランの見直し:
- なぜ退職したのか、次にどんな仕事がしたいのか、どんなスキルを身につけたいのかなど、これまでのキャリアを振り返り、今後の方向性をじっくり考える良い機会です。
ステップ4:失業認定日と基本手当の受給
給付制限期間が終了したら、いよいよ基本手当の受給が始まります。そのためには、「失業認定日」にハローワークで失業の認定を受ける必要があります。
- 雇用保険受給者初回説明会への参加:
- 受給資格決定後、指定された日に「雇用保険受給者初回説明会」に参加します。この説明会で、失業保険制度の詳細、今後の手続きの流れ、失業認定の受け方、求職活動実績の条件などが説明され、「雇用保険受給資格者証」と「失業認定申告書」が配布されます。また、この説明会が1回目の求職活動実績としてカウントされます。
- 説明会で、次回の「失業認定日」が指定されます。通常、失業認定は4週間に1度行われます。
- 求職活動実績の報告と失業認定:
- 失業認定日には、失業認定申告書に、直前の認定日から今回の認定日までの期間に行った求職活動の実績を記入して提出します。
- 自己都合退職の場合、給付制限期間中およびその後の認定対象期間において、原則として「2回以上」の求職活動実績が必要となります(初回認定日には、初回説明会参加で1回とカウントされ、他にもう1回活動が必要です)。
- ハローワークの窓口で担当者との面談を行い、求職活動の内容や現在の状況について確認されます。問題がなければ「失業認定」がなされます。
- 基本手当の受給:
- 失業認定を受けると、通常は5営業日程度で、指定した金融機関の口座に基本手当が振り込まれます。
- 以降、4週間に一度の失業認定日にハローワークへ行き、失業認定を受け続けることで、所定給付日数分、基本手当が支給されます。
求職活動実績として認められる主な活動例
- ハローワークでの職業相談、職業紹介、求人情報の閲覧・応募
- ハローワークが主催する職業訓練の説明会やセミナーへの参加
- 公的機関が実施する各種講習、セミナー、職業相談
- 民間職業紹介事業者(転職エージェント)への登録・面談
- 求人サイトを通じた企業への応募
- 企業の採用試験や面接の受験
単なる求人情報の閲覧だけでは実績として認められない場合があります。「応募」や「相談」「セミナー参加」など、具体的なアクションを伴う活動が求められます。
失業保険の金額(基本手当)の計算方法
失業保険の基本手当の金額は、あなたの離職時の状況によって異なります。ここでは、支給額を決定する要素と、その計算方法について詳しく解説します。
基本手当の受給額を決める要素
失業保険の基本手当の1日あたりの支給額(基本手当日額)は、主に以下の要素によって決まります。
離職時の年齢
基本手当には、年齢に応じて上限額と下限額が設定されています。例えば、賃金日額が同じであっても、年齢によって支給される基本手当日額の上限が変わることがあります。
離職理由(会社都合か自己都合か)
基本手当の計算方法自体は離職理由によって変わりませんが、離職理由によって所定給付日数が大きく異なります。自己都合退職の場合、会社都合退職よりも給付日数が短くなる傾向があります。
過去の給与(基本手当の算定基礎額)
基本手当の算定基礎となるのは、離職日以前6ヶ月間の賃金です。
- 賃金日額の算出:
- 離職日以前6ヶ月間に支払われた給与(賞与や退職金を除く、税金や社会保険料が控除される前の総支給額)の合計を180で割った金額が「賃金日額」となります。
- 賃金日額には上限額と下限額が設定されており、それを超える・下回る場合は、上限額・下限額が適用されます。この上限額・下限額は毎年8月1日に改定されます。
- 給付率の適用:
- 賃金日額に、年齢や賃金日額の高さに応じた「給付率」を掛けて、基本手当日額が算出されます。
- 給付率は、賃金日額が低いほど高く、賃金日額が高いほど低くなる傾向があります。これは、低所得者の生活をより手厚く保障するためです。
- 給付率は、約50%~80%の範囲で設定されています。
基本手当日額の計算式:
賃金日額 × 給付率(50%~80%) = 基本手当日額
例:
* 離職時の年齢:30歳
* 離職前6ヶ月間の給与総額:150万円(月額25万円)
- 賃金日額の計算:
150万円 ÷ 180日 = 8,333円(賃金日額) - 給付率の適用:
この賃金日額(8,333円)の場合、仮に給付率が60%とすると
8,333円 × 60% = 4,999.8円 ≒ 5,000円(基本手当日額)
※実際の給付率は、年齢や賃金日額に応じて細かく定められています。ハローワークで正確な金額を確認しましょう。
雇用保険の加入期間
雇用保険の加入期間は、基本手当日額の計算には直接影響しませんが、失業保険を受給できる期間(所定給付日数)を決定する重要な要素となります。加入期間が長ければ長いほど、所定給付日数も長くなります。
失業保険の給付日数について
基本手当が支給される期間は、「所定給付日数」と呼ばれ、個人の状況によって異なります。
自己都合退職の場合の給付日数
自己都合退職の場合の所定給付日数は、離職時の年齢と雇用保険の加入期間によって決まります。原則として、会社都合退職者よりも給付日数が短く設定されています。
| 雇用保険加入期間 | 離職時の年齢 | 所定給付日数 |
|---|---|---|
| 10年未満 | 全年齢 | 90日 |
| 10年以上20年未満 | 全年齢 | 120日 |
| 20年以上 | 全年齢 | 150日 |
例:
あなたが40歳で、雇用保険加入期間が15年の場合、自己都合退職であれば120日の所定給付日数となります。基本手当日額が5,000円であれば、総支給額は約5,000円 × 120日 = 600,000円となる計算です。
注意点:
* 所定給付日数は、失業認定を受けた日数に応じて消化されていきます。
* 基本手当の受給期間は、原則として離職日の翌日から1年間です。この1年間という受給期間内に所定給付日数を消化する必要があります。病気や出産などで働けない期間があった場合は、申請により受給期間を延長できる場合があります。
正確な基本手当日額や所定給付日数は、ハローワークで離職票を提出し、受給資格が決定された際に通知される「雇用保険受給資格者証」で確認できます。
失業保険受給中に転職活動を成功させるポイント
失業保険は、再就職までの生活を支えるための重要な制度ですが、単に手当をもらうだけでなく、その期間を有効活用して、次のキャリアへのステップアップにつなげることが何よりも大切です。ここでは、失業保険を受給しながら転職活動を成功させるためのポイントを解説します。
早期の転職活動開始の重要性
自己都合退職の場合、7日間の待期期間と、原則2ヶ月(2025年4月以降は1ヶ月)の給付制限期間があります。この期間中は失業保険が支給されませんが、決して「何もしなくてよい期間」ではありません。むしろ、この給付制限期間こそ、早期の転職活動を開始する絶好の機会と捉えるべきです。
- ブランク期間の最小化:
- 給付制限期間中から活動を開始することで、失業認定が始まり基本手当が支給される頃には、すでに選考が進んでいる状態に持ち込める可能性が高まります。これにより、職務経歴に「ブランク」が生じる期間を最小限に抑えられます。採用担当者も、ブランク期間が短い方が前向きな印象を受けやすい傾向にあります。
- 精神的・経済的余裕の確保:
- 基本手当の支給が始まってから本格的に活動を始めるよりも、制限期間中に準備を進めておくことで、支給開始後の精神的・経済的余裕が増します。これにより、焦ることなく、納得のいく企業選びができるようになります。
- 求職活動実績の確保:
- 失業認定を受けるためには、原則として2回以上の求職活動実績が必要です。給付制限期間中に求職活動を開始し、ハローワークでの相談やセミナー参加、企業への応募といった実績を積んでおくことで、失業認定日にもスムーズに対応できます。
ハローワークや求人サイトの活用法
転職活動には様々なツールがありますが、それぞれの特性を理解し、効果的に活用することが成功への近道です。
- ハローワークの活用法
- メリット:
- 雇用保険に関する相談・手続きの窓口: 失業保険の手続きはもちろん、受給中の疑問点や求職活動に関する相談もできます。
- 職業相談・紹介: 専門の相談員が、これまでの経験や希望をヒアリングし、適した求人を紹介してくれます。面接対策や応募書類の添削も行ってくれます。
- セミナー・講習会: 履歴書・職務経歴書の書き方、面接対策、パソコンスキルアップなど、再就職に役立つ様々なセミナーを無料で受講できます。これらは求職活動実績にもなります。
- 職業訓練: 新たなスキルを習得したい場合、公共職業訓練(ハロートレーニング)を受講できます。条件を満たせば、訓練期間中の手当支給延長や訓練手当の支給もあります。
- 地域密着型の求人: 地元の企業の求人情報が豊富です。
- 活用ポイント:
- 積極的に相談員を活用し、自分に合った求人を見つけてもらいましょう。
- セミナーや講習会に積極的に参加し、スキルアップと求職活動実績を同時に積みましょう。
- 初回説明会後、早めに職業相談を受けておくと、その後の流れがスムーズになります。
- メリット:
- 民間求人サイト・転職エージェントの活用法
- メリット:
- 非公開求人: ハローワークでは扱っていない、企業の機密性が高い非公開求人を紹介してもらえることがあります。
- 専門性の高い求人: 特定の業界や職種に特化した求人情報が豊富です。
- 手厚いサポート: 専任のキャリアアドバイザーがつき、求人紹介だけでなく、応募書類の添削、面接対策、企業との条件交渉まで、きめ細やかなサポートを受けられます。
- 情報収集: 企業の内部情報や業界の動向など、個人では得にくい情報を提供してもらえます。
- 活用ポイント:
- 複数の転職エージェントに登録し、多くの情報を得ることをお勧めします。ただし、担当者との相性も重要なので、信頼できるエージェントを見つけましょう。
- 自分の強みや希望を明確に伝え、アドバイザーとの連携を密にすることで、ミスマッチの少ない求人に出会えます。
- スカウトサービスなどを活用し、企業からのオファーも積極的に検討しましょう。
- メリット:
ハローワークと民間求人サイト・転職エージェントの併用が最も効果的です。公的な支援と民間の専門性を組み合わせることで、転職活動の選択肢を広げ、成功の可能性を高めることができます。
失業保険の計算シミュレーションを活用する
転職活動中の経済的な不安は、精神的な負担につながりかねません。そのため、失業保険の受給額や受給期間を事前にシミュレーションし、具体的な資金計画を立てておくことが非常に重要です。
- 何のために?:
- 月の生活費と照らし合わせ、失業保険だけで足りるのか、貯蓄からどのくらい補う必要があるのかを把握できます。
- いつから、いくらの手当が、いつまで支給されるのかを明確にすることで、転職活動にかけられる期間や、希望する給与水準などを具体的に考えることができます。
- 転職活動の期間目標設定にも役立ちます。「○ヶ月以内には決めたい」という具体的な目標を持つことで、モチベーションを維持しやすくなります。
- 活用方法:
- ハローワークのウェブサイトには、基本的な計算方法が示されています。
- また、インターネット上には、賃金日額や離職時の年齢、加入期間などを入力すると、おおよその基本手当日額や所定給付日数を計算してくれるシミュレーションツールが多数存在します。これらを活用して、ご自身のケースを試算してみましょう。
- ただし、あくまで概算であり、正確な金額はハローワークでの手続き後に決定されますので、最終確認はハローワークで行ってください。
失業保険受給中の転職活動は、時間と労力がかかるものですが、計画的に進め、利用できる制度やサービスを最大限に活用することで、次のキャリアへとつながる有意義な期間にすることができます。
自己都合退職で失業保険をもらえないケース
自己都合退職であっても失業保険(基本手当)は受給可能ですが、特定の条件下では受給できない、あるいは受給が困難になるケースも存在します。ここでは、どのような場合に失業保険をもらえないのか、またその例外について解説します。
離職理由による給付制限の例外
「自己都合退職」と一口に言っても、その理由には様々なものがあります。本来、自己都合退職であれば給付制限期間が設けられますが、やむを得ない事情による自己都合退職と認められた場合は、「特定理由離職者」として扱われ、給付制限が適用されないことがあります。
しかし、以下のような場合は、自己都合退職であっても失業保険を受給できない、または受給期間が大きく制限される可能性があります。
- 受給資格期間(雇用保険の加入期間)が不足している場合:
- 前述の通り、自己都合退職の場合、原則として離職日以前2年間に被保険者期間が通算して12ヶ月以上必要です。この期間が満たされていない場合は、失業保険の受給資格自体がありません。
- 「失業状態」ではないと判断された場合:
- 失業保険は「再就職する意思と能力があり、積極的に求職活動を行っているにもかかわらず、職業に就くことができない状態」である人に支給されます。
- 以下のような場合は、失業状態とはみなされず、受給できません。
- 病気やケガで、すぐに働けない状態にある場合(ただし、治癒後に働ける場合は受給期間延長の手続きが可能です)
- 妊娠、出産、育児のため、すぐに働けない状態にある場合(同様に受給期間延長の手続きが可能です)
- 家事に専念する、起業準備中で事業に専念するなど、就職する意思がないと判断される場合
- 正当な理由なくハローワークが紹介する求人を拒否し続ける場合
- 会社の役員に就任した場合:
- 退職後に会社の役員(取締役など)に就任した場合、たとえ給与を受け取っていなくても、雇用保険上の「事業主」とみなされ、失業状態ではないと判断される場合があります。
- 「正当な理由のない自己都合退職」とみなされる場合:
- 失業保険の制度上、特定の重大な理由がない自己都合退職には給付制限期間が設けられます。
- ただし、「特定理由離職者」として認められれば給付制限は免除されます。特定理由離職者と認められる「正当な理由」には、以下のようなものが含まれます。
- 健康上の理由: 自身の病気やケガ、心身の障害などにより、離職を余儀なくされた場合。
- 家庭の事情: 親族の介護や看護、配偶者の転勤に伴う別居回避のための離職、育児のため離職し、期間経過後に再就職を目指す場合など。
- 職場環境の悪化: 労働契約の内容と実際の労働条件が著しく異なる、賃金の大幅な減額、残業代の不払い、ハラスメント(セクハラ・パワハラなど)やいじめが原因で離職した場合など。
- 会社の都合: 会社の移転により通勤が困難になった場合、人員整理の対象となったが、希望退職に応じた場合など。
重要:ハローワークへの相談
ご自身の離職理由が「特定理由離職者」に該当するかどうかは、最終的にハローワークが判断します。自己都合退職でも、やむを得ない事情があった場合は、必ずハローワークの窓口で詳細を説明し、相談してください。
その際、診断書、介護を証明する書類、会社とのやり取りの記録など、離職理由を客観的に証明できる書類を求められる場合があります。事前に準備しておくとスムーズです。
もし、ハラスメントなどが理由で退職した場合でも、証拠が不十分で「自己都合退職(給付制限あり)」と判断されてしまうケースもあるため、退職前にできる限りの証拠収集をしておくことが望ましいです。
自己都合退職であっても、事情によっては給付制限が免除されることで、経済的な負担を大きく軽減できます。諦めずにハローワークへ相談することが、失業保険受給への第一歩です。
よくある質問(FAQ)
自己都合退職で失業保険(基本手当)を受給するにあたり、多くの方が抱く疑問について、Q&A形式で解説します。
失業保険は自己都合の場合、いつからすぐもらえる?
自己都合退職の場合、失業保険がすぐに支給されることはありません。
受給資格が決定してから、「7日間の待期期間」と「原則2ヶ月の給付制限期間」が経過した後に、初めての失業認定日を迎えてから支給が開始されます。
2025年4月1日以降の離職者であれば、給付制限期間は原則1ヶ月に短縮される見込みです。
例(現在):
ハローワークに申請 → 7日間の待期期間 → 2ヶ月の給付制限期間 → 最初の失業認定日 → 5営業日程度で初回の振込
したがって、ハローワークでの受給資格決定日から約2ヶ月+1週間+数営業日後が、初回の支給開始の目安となります。
失業保険は自己都合だと何ヶ月待つの?
自己都合退職の場合、失業保険の支給が開始されるまでには、ハローワークでの受給資格決定日から「約2ヶ月と7日間」待つ必要があります。
2025年4月1日以降に離職する自己都合退職者については、給付制限期間が1ヶ月に短縮されるため、「約1ヶ月と7日間」の待ち期間となります。
この期間中は基本手当が支給されないため、その間の生活費については、ご自身の貯蓄などで賄う必要があります。計画的に資金を準備しておくことが重要です。
失業保険を一度もらうと、次回の受給に影響はある?
失業保険は、雇用保険に加入していた期間に応じて受給できる権利です。一度失業保険を受給しても、次回の受給資格を再度満たせば、問題なく受給できます。
次回の受給資格を得るためには、以下の条件を再度満たす必要があります。
- 離職の日以前2年間で、雇用保険の被保険者期間が通算して12ヶ月以上あること(自己都合退職の場合)。
- 前回の受給終了から一定期間が経過していること(これは通常、再就職して再度雇用保険に加入していれば自然と満たされます)。
ただし、前回受給した給付日数分はリセットされます。つまり、次回の離職時には、その時点での雇用保険加入期間に応じた新たな給付日数が設定されます。
手取り20万円だった場合の失業保険はいくら?
手取り額は税金や社会保険料が控除された後の金額であるため、失業保険の計算には直接使用できません。失業保険の計算は、税金や社会保険料が控除される前の「総支給額」に基づいて行われます。
仮に、税金等控除前の給与総額が月25万円だったとして計算してみましょう。
- 賃金日額の算出:
離職前6ヶ月間の給与総額 = 25万円 × 6ヶ月 = 150万円
賃金日額 = 150万円 ÷ 180日 = 8,333円 - 基本手当日額の算出:
賃金日額8,333円の場合、離職時の年齢にもよりますが、給付率が約60%と仮定すると、
基本手当日額 = 8,333円 × 60% = 4,999.8円 ≒ 5,000円
この場合、1日あたり約5,000円が支給される計算になります。実際の給付率は年齢や賃金日額の細かな区分によって異なるため、ハローワークで正確な金額を確認してください。
2025年4月の自己都合退職に関する法改正は?
2025年4月1日以降に離職する自己都合退職者を対象に、失業保険の給付制限期間が、現在の原則2ヶ月から「原則1ヶ月」に短縮される予定です。
これは、政府が転職支援を強化し、リスキリング(学び直し)や労働移動の円滑化を促進するための施策の一環です。この改正により、自己都合退職後の経済的な負担が軽減され、より早期に次の仕事を見つけやすくなることが期待されます。
現在の制度(~2025年3月31日離職): 待期期間7日間 + 給付制限期間2ヶ月
改正後の制度(2025年4月1日~離職予定): 待期期間7日間 + 給付制限期間1ヶ月
ご自身の離職予定時期がこの改正の対象となるか否かで、失業保険の支給開始時期が大きく変わるため、事前にしっかりと確認しておくことが重要です。
【まとめ】自己都合退職でも失業保険は計画的な転職の味方!
自己都合退職であっても、失業保険(雇用保険の基本手当)は、次のキャリアを築くための大切なサポート制度です。適切な受給資格を満たし、正しい手続きを踏むことで、安心して転職活動に専念できるでしょう。
この記事では、以下の重要なポイントを解説しました。
- 受給資格: 離職日以前2年間で雇用保険加入期間が通算12ヶ月以上あること。
- 給付制限期間: 自己都合退職の場合、7日間の待期期間の後に原則2ヶ月(2025年4月以降は1ヶ月)の給付制限期間があること。
- 申請の流れ: 離職票の受け取りからハローワークへの申請、初回説明会、失業認定日を経て支給が開始されること。
- 支給額と給付日数: 離職時の給与、年齢、雇用保険加入期間によって計算されること。
- 転職活動のポイント: 給付制限期間中から積極的に求職活動を開始し、ハローワークや転職エージェントを効果的に活用すること。
自己都合退職は、自身の意思で新しい道を切り開く選択です。失業保険を賢く活用し、この期間を自己成長と次なるチャンスへと繋げる期間にしましょう。不明な点があれば、遠慮なく最寄りのハローワークに相談し、正確な情報を得るようにしてください。あなたの新しい挑戦を心から応援しています。
【免責事項】
この記事は、失業保険に関する一般的な情報を提供するものであり、個別のケースにおける法的アドバイスや具体的な支給額・期間を保証するものではありません。雇用保険法や関連法規は改正される可能性があり、また個人の状況によって適用される規定が異なります。最終的な判断や詳細については、必ず厚生労働省や管轄のハローワークにご確認ください。
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